戻る

◆がっつり完全パラレルです。天使と悪魔を題材にしたお話です。
一応シリアスなんですが…、なんだか不完全燃焼(^^;)例によって展開が早すぎた。
エピローグまで書きたかったんですけどねー、そのうちサイトで書くかも知れません(笑)


<一部分抜粋>


何度か打撃を繰り返し化け物を打ちのめすと、苦悶の叫びを上げてシュウシュウ…と消滅していく。
あっさりと決着がついて、恭弥は短く溜息をついた。
武器を振るっている間は昂揚しているのだが、簡単に蹴りが付くと途端に冷めていく。
つまらない…と言う思いは恭弥の胸から消える事はなかった。

「そうやって魔物を挑発して、自分に向かわせてから退治してるのか?」

消えゆく魔物を見ていた恭弥は、背後から唐突に声がかけられて、びくりと肩を揺らした。
気を取られていたとは言え全く気付かなかった驚きに目を見開き、ば…っと振り返り声のした方を見る。
気配がわからなかった驚きもさる事ながら、声をかけられる事自体が久しぶり過ぎて、すぐに反忚を返せない。
驚愕の表情のまま見つめていると、相手は困ったように肩を竦めて、苦笑をした。

「おいおい、人間界に長く居過ぎて、オレが何かわからねぇ?」

彼は綺麗なテノールで言うと、バサ…と一瞬だけ背の羽根を広げて見せた。
恭弥が、は…っと息を飲んだ時には消えていたが、見えた翼は確かに白く自分と同じものだった。

「あなた…天使?」
「あぁ、お前と同じ…な」

ぽつりと呟かれた問いに彼は頷くと、近づいて未だ構えていた恭弥のトンファーの先に手を置き、そっと下に降ろした。
無意識に構えていた恭弥は、はっとしてすぐに武器をしまう。
それから自分の前に立つ青年を、まじまじと眺めた。

自分より身長が高い彼は、長めの金の髪を外に跳ねさせ遊ばせていて、瞳も同じような金色だ。
きっちりと黒のスーツを着込んでいる恭弥と違い、フード付きの薄手のコートに、トレーナーとデニムと言うラフな姿だった。
彼らの衣服も適当に人間界の服を模して作った物だが、それぞれの好みで選択されている。

不躾に眺める恭弥に、彼は長い金の前髪を掻き上げて苦笑する。
天使だと認識はしたが、どうにも不思議な雰囲気を持つ青年だった。
しかし自分も天使らしいとは言えない為、何が違うのかはわからなかった。
もともと他の天使との交流も尐なく違和感の理由はわからない。
人間界に降りているような天使だ、自分と同じで普通ではないのだろう。

「それで?何か用?」
「……今の魔物は、放っておいたら勝手に消えたんじゃないか?」

青年は今までの穏やかな空気を潜めて、路地の奥に視線をやり恭弥の問いに答える。
恭弥は彼の視線を追って見るものの、意図する所がわからず首を傾げた。
その様子に、金の髪の青年は、溜息をつく。

「日中に出た魔物の多くは、光の中に出れずに勝手に戻っていくんだよ」
「そう?でも人間界に出てくる意志があるんだから、害を成さないうちに摘み取っておけば良いじゃない」
「間違って出てきちまっただけかも知れないだろ?天使が魔物を狩れるのは、
明確に人間に害を成す時だけ…だったはずだぜ」
「もう一つ。天使に向かってきた輩も、だよ」
「それはお前が挑発したからだ。…んな事を続けてると、天使の偉いさんから咎められるぜ」

そう言う相手に、は…、と鼻で嘲笑して恭弥は答えた。

「奴らのほとんどは人間に無関心、さ。こうやって退治する僕らが居るのを感謝して欲しいくらいだよ」

恭弥は「あなただって知ってるだろう」と、怪訝気に片眉を潜めて続ける。
青年は少し驚いたように瞬きしていたが「そうだな」と嘆息して恭弥の言葉を認めた。
しかし彼は険しい表情を緩めない。
鋭く細められた眼光を向けられて、恭弥はぞくり…と背筋が泡立つのを感じる。
もともと力が強い上に、魔物と戦っているうちに更に戦闘能力において際立っている恭弥は、
相手が相当力のある者だと感じ取っていた。

「それならオレが言ってやるさ。無差別に狩るのは関心しない」
「ふうん、あなた偉いの?天界で見た事はないけど」
「そうだな…、お前よりはずーっと年長者だぜ。長い間人間界に居るから若いお前は知らないだろうが」
「人間界に?何故?…あなたも魔物を狩る役目を担ってるの?」

不思議に思い矢継ぎ早に聞く恭弥に「ま、そんなもんだ」と適当に答える。
恭弥は相手から感じる力の深さの納得がいった。
天使の年齢は見かけでは判断できないが、年月を重ねる程に力は強まっていく。
何か不可思議な力を感じるのも、きっとその為だろう。

「とにかく。今後は尐しは相手の様子を見ろ」

上からの物言いに、恭弥は、む…っと口を引き結ぶ。
基本的に天使は上位の者に従うように出来ているが、恭弥は規格外である。
しかも天界で見た事もない相手に急に今までの行為を否定されて、面白いわけがない。
不貞腐れたように、ふい…と顔を逸らして答える。

「嫌だよ面倒くさい」
「……それじゃ、オレが止めに来るかな」

恭弥の言葉に彼が答えた瞬間に、びり…、と圧迫感を感じて。逸らしていた視線を戻した。
先ほども感じたぞくりと背筋に何かが抜ける感覚。
青年は凄んでいるわけでもないのに、全身から恭弥に圧力をかけている。
恭弥は、ごくり…と軽く唾を飲み込む。こんな気分は初めてだ。
しかし感じているのは恐怖じゃない。心の奥で沸き起こるのは昂揚感だった。

「どうやって?天使同士で戦うのは、禁忌とされているのに」

言葉にして、恭弥は本気で惜しいと思っている事を自覚した。
天使同士で傷つけ合うのは最大の禁忌とされている。
悪意を持って攻撃し、相手が傷を負えば即座に堕天する程に罪が深い。
この人と戦う事ができたら、さぞかし楽しいだろうに。
そんな思いが伝わったのか、青年は、やれやれ…と言った風に嘆息して威圧感を解除した。

「お前、ホントに変わった天使だな。戦いたいって顔に書いてあるぜ?」
「…自覚済みだけど。同じように人間界に居るあなたに言われたくない」
「まぁ…そうだけどよ。別に戦うだけが手段じゃないんだぜ」

そう言ってにぃ…と笑った青年は、バサ…と羽根を出現させた。
陽光に反射して輪郭がぼやけているが、白く輝く力ある翼に見える。
何かをするのかと身構えるものの、踵を返す様子にただ離れるだけだと知れば拍子抜けする。

「お前が改めれば何もしねぇけど」
「僕は変わるつもりはない」
「なら。また会う事になるだろうな」

そのまま羽根を羽ばたかせ、ふわり…と宙に舞う彼を目で追っていると、小さく声が耳に届いた。

「オレはディーノって言うんだ。覚えておけよ?恭弥」

彼の名と共に、確かに続けられた自分の名前に、恭弥は目を見開く。
しかし天使界で異端児である自分の名はわりと広まっているから、知っていてもおかしくない。

「ディーノ…」

耳に残る彼の名前を呟くと、恭弥は心なしか胸が弾む気分になった。
今までになかった出会いだ。
何かが変わる…、そう確信を持つと自然と口元が楽しげに釣り上がる。

(早く次が訪れればいい)

恭弥は再会を心待ちにして羽根を羽ばたかせると、いつものように昼の街の上を飛んで巡回する。
気配を研ぎ澄まして魔物が現れる歪みを探っていた。
その時にこそ、再会があると期待して。