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◆ぷちパラレル…的な(笑)例のごとく十年バズーカによる時代移動です。
今回はすんごい長時間を飛んじゃってます。ディーノと恭弥2人一緒です。
そこで出会う人が問題なんですが…、これは読んでのお楽しみって事で(笑)
ほぼディノ視点。


<冒頭部分抜粋>

鬱蒼と木々が覆い茂る深い森の中、日常とは違う変化が唐突に表れた。
地面から1mくらいの高さの空間に薄い靄がかかったかと思えば、中心にあった何かが徐々に具現化して行って。
完全に実体化した時には人の形になり、重力に従ってどさりと落ちる。
急に表れた存在に樹で羽を休めて居た鳥達が、ばさばさ…と羽音を立てて飛び立っていく。
静かな森は一瞬、異質な存在にざわめいたが数秒でまた常の静寂を取り戻した。

長く伸びた草原に落ちた人物の1人が、痛みが走る膝を抱えて唸る。
高さにしたら大した事はないが、全く受け身を取れない状態で落ちた為、膝をしたたかに打ったようだ。

「いって…ぇ…」

呻く声は酷く弱々しく掠れていた。
彼を、ディーノを襲っていたのは膝を打った痛みだけじゃなかった。
全身から力が抜けたような倦怠感。頭痛もあるし吐き気もあるかも知れない。
最悪の体調に眉間に深く皺が寄り、膝の痛みを忘れてしまう程だった。

しかしディーノが己の状態に苦しんでいたのは、時間にして1分もなかっただろう。

は…っと、顔を上げると。共に居たはずの姿を探す。
飛ばされる瞬間まで一緒に居た恭弥の姿を。

辺りを見回すと、見慣れた制服に身を包んだ少年が倒れている姿がすぐに目に入った。

ディーノは慌てて身体を起こして駆け寄ろうとするも、右膝の痛みにつんのめってしまう。
しかし、1人である彼にしては奇跡的に転ぶのを耐えて地面に手をつき体勢を保つと、恭弥の側に膝をつく。

恭弥は気を失っているようで、ぴくりとも動かない。
まさか…とは思いつつも、最初に恭弥の首筋に指をあてて脈を確かめる。
少し早いが、とくとく…と感じる脈に、ひとまずは、ほ…っと安堵した。

しかし安心していられる状況でもない。

「恭弥、恭弥…」

ディーノ体調はまだ最悪だったが、心配げな声はしっかりと言葉になっていた。
呼びかけにぴくりとも反応しない様子に深く意識が無い事を知り、心配は募る。
どうして目覚めないのかわからなかった。同じように移動した自分の、
倒れたくなるくらいの気分の悪さと関係しているのだろうか。
酷い頭痛もあるし、…まだ成長途中の恭弥に負担がかかったのだろうか。

早く暖かいベッドに寝かせて、休養させたいものの。見回す限りの森林にディーノは途方に暮れた。

(いったい、ここは…何処だ)

わからない場所で無闇に動くのは危険だったが、ここに留まっていても事態は変わらないだろう。
それは経験による直感だった。
ディーノはデニムのポケットに入っている携帯を出す。
衛星電話だから地球上のどこに居ても繋がるはずなのに『圏外』となっているのは、
この世界に契約する電波がないのだ。
それは時代が違う事を意味していた。

(やっぱりあの時、もう一回飛ばされたんだ…、戻ったんじゃなくて)

痛む頭を押さえながら状況を整理しようと、ここに至る経緯を思い出していた。

ディーノは最初、並盛中の応接室に居たのだ。
いつもの通り仕事で日本に来ていて、合間に恭弥のもとに通っていた。
今日は来日3日目で恭弥に会うのは2回目。彼はディーノが来ても歓迎する気もなく、
相変わらず風紀委員の書類を眺めていたっけ。

ディーノも構われない事にはもう慣れっこだったから、恭弥の仕事が終わるのをソファで待っていた。
携帯でこっそり仕事のメールをチェックしている時に、唐突に応接室の窓に飛んできたのだ。例のバズーカの弾が。

予想するに、校庭でリボーンとランボが喧嘩でもしていたのだろうと思うが。
こうやって巻き込まれるのも何回目かなぁ…なんて、未来に向かう数秒で考えたものだ。
慣れたものだったから、焦ったりもしない。
そして次の瞬間、近くに居た恭弥も一緒に未来に放り出された。

しかし、本来なら5分は居なきゃいけない未来に滞在したのは、ほんの十数秒だっただろう。

飛んだ先で、またすぐに視界がぐにゃりと歪むのを感じた。
それは未来に飛ぶ瞬間に味わう感覚と良く似ていて、ディーノは直感的に(あ、また移動する)と悟ったものだ。
それも束の間、次の瞬間には森の中に落ちていて今に至る。

(あれは…入江正一だったな)

飛ぶ間際に見た顔は、驚きに満ちた彼の顔だった。
未来のディーノと恭弥はそろって入江の研究室に居たらしい。
何がどうなったかわからないが、ディーノ達が未来に現われた瞬間に入江の研究している
十年バズーカか何かが作用して、再度タイムトラベルしたんじゃないだろうか。
現代に戻れたんじゃ…と言う期待は携帯の電波で崩された。
飛んだ先の未来で再度十年バズーカの影響を受けたのなら、ここは20年後の世界かも知れない。

ディーノは再度携帯を開いた。この世界の時刻とはずれているだろうが時計は動いていて、
さっき確かめた時から10分以上は経っていた。通常5分で帰れるはずなのに戻らないとなると…、
今までの経験からして暫くは滞在する事になりそうだ。

取り合えず、今置かれている状況を理解すると、倒れている恭弥を丁重に背に担いで歩きだした。
どこまで森が続いてるかはわからないが、少しでも休める所に連れて行きたかった。
だが、もともと基礎体力が高いとは言えコンディションは最悪で、ディーノの足元もおぼつかない。
気力を奮い立たせてディーノは歩き続けていく。
1人だったなら10分も持たなかったかも知れないが、恭弥を守りたいと言う気持ちだけで足を進めていた。

(目が霞む…)

ぜいぜいと荒い呼吸が耳に響く。かれこれ1時間は歩いた気がするが、高低差がない為、山ではないのだろう。
せめて洞窟でもないかと探していたが、ただの森林だったとすると難しいかも知れない。

方向を変えようか迷っていた所で、ディーノは視界の先に木々が無くなっている場所があるのに気付いた。
数mの幅だったが草と樹が除去されていて地面が見えている。横に長く続くそれは道のようだった。

ディーノは緩く口端が上がり、ほ…っと息を吐いた。道があると言う事は先に人の住んでいる所がある。
闇雲に歩くより辿って行く方がずっとマシなはずだ。

しかしそこまで来て、ディーノの体力も限界だった。このまま進めば道の真ん中で倒れかねない。

道の傍らの草の長い場所を探すと、ゆっくりと恭弥を降ろして寝かせる。
着ていた薄手のパーカーを上にかけて、自分はすぐ横の樹の根元に座りこんで長く息を吐く。

(少しだけ休んで、回復しなきゃ…)

自分の意思で休むのと倒れるのでは随分違う。休憩すればまた歩けるようになるだろう。

ディーノは、ずる…と幹に身体を預けると目を閉じて、何かを考える間もなく気を失うように眠りに落ちた。
それは身体が真に休息を欲していて、深い眠りだった。
だからディーノは気付かなかったのだ。
いつもは他人の気配に敏感過ぎるくらいに反応するのに、馬の足音と共に現われた人物に気付かなかった。

彼は見事なたてがみを持つ白馬の手綱をとり、ゆっくりと道を進んで。森の方へと視線を向ける。
ディーノ達は一見してすぐ見える所に居たわけじゃない。
一応は用心して隠れた場所に居たのに、彼は何かを見つけて眉間に皺を寄せた。
ひらりと馬から飛び降りると、迷う事なくディーノ達の方へ歩いて行く。

ディーノは眠っている間に身体がずれ、もたれた格好から横に倒れて眠っていた。
そんな衝撃にも起きない程だから、眠っていると言うより気絶していると言った方が正しいか。

近づいた青年はディーノの側に膝をついて警戒の眼差しで見る。
気配は完全に消していて、例えディーノが正常の状態であっても気付かなかっただろう。

目を細めて暫く眺めていた後、すぅ…と流れるような動きでディーノの前髪を横に払った。

「……っ!」

ぴくりとも動かない深い眠りに入っているディーノの寝顔を見て、一瞬青年の気配が揺らぐ。
警戒の表情が溶けて目を見開き、驚いたものになった。

胸元に忍ばせて居た銃から手を離すと、静かに息を吐く。
それから彼は、一旦離れると馬の方へと戻って行った。
繋いでもいないのに大人しく道で待っていた白馬に飛び乗ると、来た道を戻って行った。