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◆前作のシリアス本の反動でただの馬鹿っぷる本になってます(笑)現代話です。
ディーノ誕生日〜バレンタインまでのお話。内容はあんまり無くいちゃいちゃしてます…(笑)
<冒頭部抜粋>
『オレからのプレゼントだぞ、必ず来い。来なかったら…』
続きは読むのも恐ろしい事柄が書いてあって、受け取ったディーノはその場で青ざめていた。
封筒の中にはその手紙とホテルのカードキーが同封されている。
キーに記されている名前は知っているホテルで、屋敷からはほど近い場所にあった。
行くのは簡単だ、しかしこの部屋に何が待ち構えているか…。
(…んとに、毎年素直に渡せねーのかよ…、リボーンの奴は…)
これまでの事を振り返り、ディーノは遠い目をして天井を仰ぐ。
そう言えば何年か前も似たような手紙が来たな。その時行った先には1頭の豹がいて、手懐けてペットにどうぞとか無茶な書置きしてあったっけ。
結局そんなもの飼えるわけないし動物園に丁重に寄付して来たが。
行った先でいきなり檻の中に放り込まれ、猛獣と共にされた時は死ぬかと思った。
あの時、共に部下が居なかったなら、本当に天に召されていたかもしれない。
「ぐあー…、行きたくねぇー!」
「んな事言っても、行かなかった時の方が怖いぜ?ボス」
「わかってるよ!!でも、今年は1人で来いって書いてあるんだぜ!?何かあったらどーすんだっ」
「最終的に命に関わるような事はしねーって。豹の時だって部下と絶対来いって書いてあったし」
手紙を持ちつつ、わなわなと震えていたディーノの横から中を盗み見てロマーリオは苦笑した。
彼もまた、似たような呼び出しだった数年前を思い出しているのだ。
死ななきゃ良いってもんじゃねぇぜ…と、ディーノはがっくりと手紙を持ったまま項垂れる。
しかしロマーリオの言った事も本当で、指示に従わなかった時の方が恐ろしい目に合うのだ。
(いつだったか忙しくて期日を忘れた時。睡眠薬かがされて太平洋のど真ん中に小さな船で置き去りにされた事があったよな…)
半日くらいで部下が助けに来たが、あの時の孤独感と恐怖は未だに忘れられない。
何で毎年誕生日にこんな目に合わなきゃいけねぇんだ…と理不尽を感じつつも、リボーンの言う事には従わざるを得ないのだ。
しかも、彼には頭が上がらない為、部下達も仕方ない…と諦めモードになっている。
それに毎年かならず嫌な事があるわけじゃなく、時々嬉しい事もあった。
欲しがっていた貴重な宝石をくれた事もあったし、ラスベガスにご招待チケットを渡された事もある。
(まるで宝くじだな…)今年は当たりだと良いなと毎年祈る気持ちで行くのだが、今回は解せない事が1つだけある。
たいてい誕生日の当日である4日の、パーティが終わった後の時間を指定するのが常だったが。
今回手紙に記されていたのは3日の午前中だったのだ。今までそんな早い時間に呼び出された事はない。
1日前ともなれば、パーティの準備をしたり招く客へ確認したりと大忙しなのだ。
マフィアのボスの誕生パーティは簡単に済ませるものでもない事をリボーンも知っているはずなのに…。
「今年の準備は前もってやって、前日の手配はオレ達でやるから心配すんな」
「ロマーリオ…」
同じ事を考えていたロマーリオは、そう言ってディーノの肩を叩いた。
「もしかすると、休んでくれって意味合いもあるのかもな。今年は当たりか?」
「…んな事あるかねぇ。んじゃ、前日の手配はお前らに任せるぜ。当日帰って来なかったらオレは星になったものと思って…」
「おいおい、物騒な事言ってるなって。いつだって最終的に…ぼっちゃんに悪くした事なんてないだろ?」
「ぼっちゃんって言うなっつの!」
未だに保護者の時の癖が抜けないロマーリオに、ディーノは顔を顰める。
だが、彼が言う事も間違ってはいなかった。どんな事があっても助けが来るようには手配してあるのが毎年の事だ。
(仕方がない…、お茶目な元家庭教師の企みに今年も付き合うか)
ディーノはやれやれと息をついて手紙をポケットにしまうと、自室に戻って行った。
何だかんだ言って滅多に味わえない経験を楽しんでいる面もあるのだ。ディーノもまた、リボーンの教え子なのである。
* * *
出来る限りの指示を部下にした後、ディーノは指定されたホテルに1人出向いていた。
ここはまだキャバッローネの傘下にある地域だから、1人だろうと危ない事はさほどない。
タクシーで乗り付けると、降りた場所からすでに丁重に出迎えられた。
顔パスで入れるホテルではあったが、ここまでの準備はリボーンの差し金だろう。
恭しく最上階のスウィートに案内してボーイは去って行く。中に入るのは自分だけで、との事だ。
ディーノはドキドキしながら同封されていたカードキーを差し込んで部屋に入った。その瞬間。
いきなり頭上から睡眠ガスが噴出され、ディーノの意識は遠ざかっていく。
部下が居ない時の不甲斐なさで咄嗟に退けられなかった。
(いきなりかよぉーーー!)
脳裏に浮かんだ叫びを発する事も出来ぬまま、ディーノの意識は闇の中へと沈んで行った。
そして暫くして、ディーノの意識は浮上する。ぱしぱし、と瞬きをして目を開けると、ホテルの天井らしき光景が目に入った。
どうやら先ほどのホテルの部屋らしく、いきなりとんでもない所へご招待されたわけではないらしい。
目が覚めるにつれて、ベッドの横にもう1つの気配を感じて身体を強張らせた。
すわ、猛獣か何か…と思い恐る恐る横目で見ると…。
ディーノはきっと、例えば隣にライオンが寝ている時よりも驚いただろう。
そこにはすやすやと心地良さそうに眠る、雲雀恭弥その人が横たわっていたからだ。
(!!?!…っきょお…やぁ!?)
叫びそうになって必死に声を止める。何しろ寝起きは最悪な恭弥だ、無理に起こしてしまったら何をされるかわからない。
そろ…っと様子を窺うとどうやら目覚める気配はなく、ほ…っと胸を撫で下ろした。
しかし安心している場合ではない。ディーノはマジマジと眠る彼を見るが、どう見てもそれは恭弥で。自分の恋人…その人で。
(もしかして…、今年の誕生日プレゼントは当たりなのかな…)
ここに呼び出した相手思い浮かべればここに恭弥を連れて来るなど造作もないだろうと思えた。
これがリボーンの差し金ならば、自分に対する誕生日プレゼントなのだろう。つまり…恋人の恭弥をどうぞ…、という事で。
万が一無理矢理連れて来たのなら、プレゼントにならねぇんじゃねーのか…と、相手が起きた時の事を考えてぞっとするも、
自分の誕生日に恭弥が居てくれるのは間違いなく嬉しい事で。
リボーンも粋な計らいをしてくれたなぁ…、と今年は当たりだった事を確信した。
その時、動かしていなかった右手を引いて、重い感触を感じる。
「……ん?」
訝しげに手首を見ると、装飾品のような光沢を見せる幅の広いシルバーのブレスレットが見えた。
それだけならまだ驚きもしなかっただろう。
そこから細いチェーンのようなものが繋がっていて、あまつさえそれが恭弥の手首にも繋がって居なければ、思わず叫んでしまう事もなかったはずだ。
「なーーー!!」
「んん、…煩い…」
あまりの事につい声を出してしまうと、案の定、恭弥は声に反応して身じろぎする。
低く唸るような声が聞こえて(ひー…)と慄いて顔が引き攣り息を潜めて見ていると、恭弥はもぞ…と動いて身体を起こした。
見るからに寝起きの不機嫌さをかもし出す瞳がディーノを捕らえる。
蛇に睨まれたカエルのように身動き出来ないでいると、恭弥は睨みつけた後、ふわ…と欠伸をして、繋がっている方の手を上げようとした。
そして、ディーノと同じ状況でブレスレットがはまっている手に気付いて眉を寄せる。
「何…、これ…」
「いや…、何だろう…なぁ?」
ディーノとて状況はわからない為、問いには答えられずに、はは…と渇いた笑いを漏らした。
すると恭弥はじろり…と再度睨んで、空いた方の手からトンファーを出すと、ぴたりとディーノの首元に先端を据える。
一瞬で満たされる殺気にディーノは口元を引き攣らせて必死に首を振った。
「ちょ、っ待て待て!オレもホントにわかんねーんだって!」
「わからないはずないだろう…?何?こーゆう趣味があるわけ。SMでもお望みかい?」
「馬鹿な事言うなって!…オレだって今目覚めて何がなんだかわかんねーんだってば!これはリボーンが…」
「―――赤ん坊が?…、っふ…、ははは…、なんて…ね」
殺気を漲らせる相手にディーノが焦りまくって弁明しようとすると、恭弥は唐突に気を散らして可笑しそうに含み笑いをする。
そんな様子を見るのも珍しいながら、急に笑いだしたのにぽかーん…とディーノが呆けていると、その横面をトンファーの先でペチペチと軽く叩いた。
恭弥はさも楽しそうに口元を吊り上げて、呆気に取られているディーノに顔を近づける。
「この僕が、状況もわからずにこんな真似許すはずないだろう。あなたじゃあるまいし」
「――は?何?…って、事はお前…リボーンとグルかよお!?」
「そう。正確に言うと…、赤ん坊との取引の交換条件だけどね。これから暫くあなたと共に居てくれって。
鎖も赤ん坊の指示だけど…繋げるのは僕の独断に任されている」
「……はぁぁ!?」
信じられない事を言い出す恭弥にディーノは呆けていた思考が水をかけられたように覚めた。
そして自分の右手を持ち上げると、シャラ…と涼しげな音がしてチェーンが揺れて、恭弥の手が僅かに動く。
チェーンの長さは大体…50cmくらいだろうか。
これだけ長ければ並んで歩いたとしても窮屈さを感じる事はないだろうが、当然それ以上離れる事はできない。
寝る時も食事の時も、風呂も…トイレ…
「わー!そんなの、ハイ、そうですかって承諾できるわけないだろ!」
そこまで想像してしまって僅かに頬を赤らめ、ディーノはぷるぷると頭を振って否定する。
「あなたの可否は聞いてないから、承諾しなくて良いよ」
「んな無茶な!!明日のパーティだってあるんだぜ、こんな状態じゃ出れねぇーよっ」
「だから、そういう時は外してあげるよ。…いいかい?これは赤ん坊の指示だよ、あなた…従わなくていいの?
それに、どんな手段を使っても離れるなと言われているし、僕もこの状況は楽しんでいる。あなたに選択権はないよ」
淡々と告げる恭弥の言葉を、ディーノは呆然と聞いていた。
確かに恭弥の言う通り、これが今年のプレゼントだと言うのなら自分に拒否する事は出来ないし、
恭弥の事だから逃れようとすると暴力でも他の手段でも使って可能にするだろう。
自分のおかれた状況に逃げ場がない事を悟り、がく…とディーノは項垂れる。
「そんなに気落ちする事もないだろ?今から明日のパーティに間に合う時間まではここに居るように、ってのも赤ん坊の指示だけど…」
そこで言葉を止めると、恭弥はシーツに頭を擦り付けて唸っていたディーノの顎を取って上向かせた。絡まる視線にドキ…と鼓動が跳ねる。
暫く黙ったまま見つめていると恭弥はそのまま顔を近づけて、ちゅ…と柔らかく唇を啄ばんだ。
その優しい感触に、ディーノは目を見開く。
「つまりは…あなたの誕生日を一番先に祝ってあげられるんだよ…」
「…っ…、それ…は…」
(嬉しいかも…)と思ってしまうあたり、ディーノも重症だ。惚れた弱みとはこういう事を言うのだろう。
恭弥の言う暫くが何日までなのかはわからないが、すくなくとも今から明日の…、自分の誕生日まで一緒に居てくれるのだ。
どうせ自分の誕生日なんて祝ってくれるはずもないと、恭弥に対しては勝手にいじけていたが…リボーンの計らいで共に過ごす事が出来る。
しかも部下はリボーンの仕業だとは知っているから、ファミリーの事も気にする事はない。
そう考えれば確かにプレゼントになるわけで、今年は当たりとも言える。
そんな考えをディーノは後にたっぷり後悔する事になるが、今は持ち前のポジティブ思考で納得する事にした。
「落ち着いたかい?」
「……まあな、色々言ってても仕方ない。毎年リボーンには驚かされるが…、まっ今年はいい方だと思おう」
「さあ…、それはどうだろうね…」
「へ?っわわ…ぁ」
がりがりと頭を掻いて笑ったディーノは、声を潜めた恭弥を怪訝そうに見つめた。
次の瞬間、止める間もなくベッドに押し倒されて、肩に手を置かれて体重をかけられる。
覆いかぶさる恭弥を見上げて驚愕に目を見開くも、緩く口元が上がっている恭弥を見て状況を察した。
ホテルのスイートに今はベッドに2人。時間はすでに夜で辺りも暗いとなれば…、恋人同士でする事など決まっている。
そこまで見越しての手配なんだろうな、と用意周到な元家庭教師に内心で苦笑した。
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