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◆全体的にシリアスで、5年後くらいの話です。二人は微妙な関係を保っています。
互いに想いあってるはずなのに互いの立場から気持を言えず、身体だけの関係。
ファミリーという絶対的な鎖を外せない彼に恭弥は気持を抑えながらも共にいます。
8割くらい恭弥視点。少しばかり、ディーノが女々しいかも知れません。

そんな日々を過ごしていたある時、抗争でディーノが捕らわれてしまう。
頼まれた恭弥は助けに行くが、そこで敵に組伏せられる彼の姿を見てしまい―――

あの時感じた想いを、もう誤魔化す事はできない。
僕は(オレは) あなたの(お前の)

事を―――


※多少ですが、暴力表現・他相手の蹂躙・オリキャラ・死ネタ、混ざる痛い話となっております。
お気を付け下さい。



<本文一部抜粋>


二人で夜を過ごす時は、行為が止まらず朝方になるのも珍しい事じゃなかった。
これだけ深く濃密な関係を交していながら、二人の関係を問われたら、明確なものはなく。
一番しっくり来る言葉と言えば「セックスフレンド」などと言う味気ないものになるのだろう。
全く愛情が無いわけじゃないとは思う。
でなければ、男同士などという面倒で危険な関係を続けるはずもない。
ただその愛情はいわゆる恋人同士のように甘いものじゃないはずだ。
…お互いにそう、思いたいだけなのかも知れないが。

「…恭弥…、水くれ…」

ベッドの端に座りペットボトルを片手にぼんやりと空を見つめていると後ろから声がかかる。
一晩鳴き続けた声は酷く渇いていて、聞くものの顔を顰めさせる事だろう。
恭弥もまた僅かに目を細めながら、持っていたペットボトルを口に付けて水を含むと、横たわるディーノに口移しする。

「……ん、…」

予想外だったのか唇から流れ込む水に眉を寄せるも、心地良い潤いを素直に受け入れ喉を鳴らす。
顔を離すと、吐息を漏らしながら口を緩く開け、飲みきれずに口端から水が伝い落ちる様子が目に入り。
昨夜あれだけ貪ったというのに、またも欲が再燃するように鼓動が揺れた。

恭弥は見ていられなくて、ふい…と視線を逸らすとペットボトルをディーノに差し出す。
上体を緩慢な動きで起こしながらディーノはそれを受け取って、ごくごくと残りを飲み干した。

「…は、…生き返る…。お前さー…もうちょっと手加減しろよなぁ…」
「何言ってるの、絡み付いて離さないのはあなたの方じゃない」
「人の所為にすんなよ。お前…ちゃんと女抱いてるか?欲求不満をオレにぶつけんじゃねーよ」
「…………、僕はいつでも同じだよ」

(あなたに対しては)

飲み込んだ言葉は当然彼には伝わらず。
「見かけによらず精力的だよな…」とおどけたようにディーノは肩を竦める。
何度も何度も、朝方まで飽きずに抱ける女なんて、居るはずもない。
たとえ相性が良かったとしても、自分がぶつける激情に耐えられる相手も居ない。
あなただけなんだよ…それを伝えるつもりは、ないけれど。

「…たた、腰いてーし…。夜の仕事に差し支えたらどうしてくれる」
「大丈夫でしょ、あなただってタフだし」
「普通の仕事ならな、久々に前線に出るってのに、身体がだるいとか言ってられねぇ…」

頭を掻いて気だるげに吐き出す言葉に、恭弥は逸らしていた視線を戻す。
心なしか驚いたように瞼を上げ「ワオ」と口癖を漏らす。

「あなたが戦闘に立つの?良く取り巻き連中が許したね」
「オレが出ないとけじめになんねぇ相手なんだ、あいつらもわかってるから、止められはしねーよ」
「……それほどの事を今のあなたの群れにするなんて、随分度胸がある…」
「まーな、最近勢力つけてきて、いい気になってるみてーだけど」

それ以上は言うつもりはないのか言葉を止め、寝不足の欠伸を咬み殺していた。
彼は必要以上に自分の群れの事情を明かす事はしない。それを知っているから恭弥も問わない。
ディーノは空のペットボトルを恭弥に渡すと再びベッドに倒れる。
もぞもぞとシーツの中に潜り込むのを見やり、恭弥はひょいと片眉を上げた。

「今から寝るの?」
「あぁ…昼過ぎまで寝かせてくれ、体力回復させねーと」

軽くそう言って身体を横にして、目を閉じるディーノをじっと見つめる。
寝不足のままで戦える相手ではないと言う事は、結構な手強い相手だと言う事だ。
ディーノ自ら出ないといけない事から、激しい戦闘になる事は予想できる。

「―――手伝ってあげようか?」

何気なくぽろりと出た言葉に。恭弥自身が少し驚いていた。
今までこう言った介入をした事はないし、するつもりもなかったけど。
漠然とした何かに押されるように、つい口にしてしまったのだ。

「…珍しいな、お前がそんな事を言うなんて」
「――…、此処の所退屈だから、それだけだよ」

ディーノにも、自分にも誤魔化すようにそう言って恭弥はベッドから立ち上がる。
眠る彼の為に朝日が差し込む窓にカーテンを引いて、部屋には程好い暗さが戻った。

「有難いけど、これはうちの問題だから遠慮するよ」
「……そう」

予想通りの言葉に、素っ気無く返事をした。どのみち聞かずとも答えはわかっていた。
「うち」の中に自分が入る事は永遠にない。
外部者の自分に助けを求める事など、完成されたこの人達の群れはしないだろう。
わかりきっていたのに口を出した事に、嘆息しながら恭弥は部屋を出て行こうとした、すると。
「行っちまうのか?」と後ろから声がかかる。

「昼過ぎには起こしてあげるよ?一人の方が良く眠れるだろうし」
「そーでも、ないんだけど…」

気まずそうな言葉の裏はすぐに悟れた。
しかし、そう言う事を求める事はあまりなかったから。珍しい、と今度は恭弥が思う番だった。

「添い寝が欲しいの?」
「んー…、人の体温って、好きなんだよな…特に、お前のは」
「―――――」

はっきりと言う自分への特別な言葉に、恭弥は瞠目してディーノを見る。
そんな風に“僕”を固定して良いのだろうか。
深い意味がない言葉だったとしても、心がざわつく。

(…揺れていてどうするんだ。ただの思いつきだろう?)

言い聞かせるように心中で呟くと、着かけたジャケットをベッドサイドの机に放ってベッドに乗り上げた。
要望を聞いてくれる動作に、ディーノは嬉しそうに微笑む。
本当に…、そんな笑顔を見せないで欲しい。認めたくない感情が溢れてくるじゃないか。

そんな苦々しい想いを気付く様子もなく、ディーノはシーツに入ってきた恭弥の身体に擦り寄った。
甘えるような仕草、行為中は良く見せるけど意識がある時は本当に珍しい。

「何か不安でも…あるの」

胸に顔を寄せる相手を、自分でも驚くほど優しく抱き締めながら。恭弥はふと口にする。
ただの思いつきにしても怪訝に思わざるを得ない。

「…少し手強い戦いだろうから、その前に安心して眠りたいだけ……」
「――…僕の腕の中は、安心するかい?」
「あぁ、だって…安全だろ?」

くす…、と小さく笑う声は既に朧気なもので。反応を返す前にディーノはまどろみ始めていた。

(違いない)

成人して世界に飛び出した今であっても、最強の名を欲しいままにしている雲雀恭弥の腕の中で。
不安に思う事は何もないのだ。


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