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◆恭弥がディーノを拉致る話です。でも痛くはないです、結局はラブラブです(笑)
恭弥からのディーノの→が顕著。ちょっと乙女入ってるかもです。
シリアスっていうほどではないけれど、ギャグでもない。なんだろう…(笑)
何気にリボーンが恭弥を牽制してますが、ディーノへは師弟愛なので、二人の関係は黙認している(笑)
<冒頭一部抜粋>
「悪い…恭弥、急に戻らなきゃいけなくなっちまった」
あぁ。やはり予想通りだ。
恭弥は表情を変える事無く窓から視線をディーノに移した。
申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ている彼に、目を細める。
約束していたわけでもなく勝手に来ていただけのディーノに、謝罪される謂れもなかった。
謝るくらいなら最初から来なければ良いのに。
恭弥は嘆息すると、じ…っとディーノを見つめる。
常ならばここで「勝手にすれば」と素っ気無く言って、彼は帰っていくだけだ。
でも今日は…、少しだけ。僕の気分は違っていた。外に立ち込める暗い雲の所為かも知れない。
「行かせない」
短く、しかしはっきりと聞こえる声で恭弥はディーノにそう言った。
常にない返答の内容に、ディーノの瞳が大きく開かれる。
驚いた顔をしている、それも無理はないだろう。
言った恭弥自身も驚いていたからだ。何故そんな事を言ったのか、自分でもわからない。
ただ、その動揺は外に出る事はなく、恭弥は顔を逸らして窓に向けると。
「……って言ったら、どうする?」と誤魔化すような言葉を付け加えた。
強く注がれていた視線が逸らされ、また、言葉遊びのように付属したものに。
ディーノは少しだけ気を緩めて息をつく。
何故か、至極真面目な様子と言葉に、驚いてしまったのだが。
ディーノはどう答えようか一瞬逡巡したが、それでも答えは決まっていた。
恭弥だってきっと、答えはわかっているはずなのに。どうしてそんな事を聞くんだろう。
言い難い事を、言わせようとするんだろうか…
「…どうも、しないぜ。そう言われても、オレは行くから」
少しだけ苦い笑みを浮かべてディーノは答えた。
それもまた、予想通りの答えだった。
恭弥は瞳を閉じて(馬鹿馬鹿しい)と内心で思うと、腕を組んで壁にもたれる。
「恭弥?」
「冗談だよ。…呼ばれてるんでしょ?行きなよ」
顔も向けずに素っ気無く言う素振りは。限りなくいつも通りだ。
ディーノは怪訝そうに片眉をあげる。
彼らしからぬ言葉はさっきの事だけで、何を思っているかの判断材料には少な過ぎた。
「…行って欲しくない、とか?」
「冗談だって言ったでしょ。ただ、あなたが困るかと思っただけだよ」
「――……ったく、悪趣味だぜ。じゃあな、時間もないし…行くよ」
こちらを見て、く…、っと喉奥で笑ってみせた恭弥に、ディーノは憮然として扉に向かった。
ただ単に、からかわれただけなのだろう。深い意味などないのだ、きっと。
そう無理矢理に完結させてディーノは部屋を出て行った。
釈然とはしなかったがそれでも、自分は行かなければいけなかったから。
完全に扉が閉まってから、恭弥は再度、ふー…と息を吐いて天井を仰いだ。
人を食うような笑みは消え去って、冷たいほどの無表情に変わっていた。
(本当に、馬鹿馬鹿しい)
言うつもりもなかった事だけれど。不意に出たあれが、本心だと言う事がわかってしまった。
勝手に現れて、勝手に居なくなるあなたを。留めておきたいと思うなんて。
恭弥は静かになった部屋の中で、じっと窓の外を見る。
そのうち門に黒塗りの車が付けられて、ディーノが乗り込んで行く様子が見えた。
向かえに来た良く見る眼鏡の男が彼を車に促して、そして遠ざかって行く。
(…留めておくには。どうしたらいいだろう)
馬鹿げてると思った事を、真剣に思案している自分がおかしかった。
車はすでに見えなくなっている。喪失感を感じるのは今日が初めてじゃなかった。
どれほどの執着があるのかわからない。手に入らないから欲しいだけなのか、それとも…
自分の気持ちにさえ、不可解な部分があるけれど。
しかし、思ってしまった事を撤回はしない。
自分はしたいと思った事を。欲しいと思ったものを。今まで諦める事はなかった。
一度だけでも閉じ込めてしまう事ができたなら。
僕は満足するんだろうか…
(それこそ、やってみなくちゃわからないな)
恭弥は思考に一旦区切りをつけると。
午後の見回りをするべく、応接室から出て行った。
(中略)
ズキズキ…と、頭が痛む。
朦朧とした意識の中で、その感覚だけが重く脳内を駆け巡っていた。
割れるように頭が痛い。何で…こんなに。
「痛い…ってーのっ!」
あまりの頭痛の酷さに、ディーノはたまらず叫んでいた。
閉じていた瞳を大きく開き、眠りから覚醒する。
夢ではなくちゃんと喉から出た声だったが、それに答えるものはいなかった。
状況が全く掴めずに、ディーノはぼー…っと、白い天井を見つめた。
(……ここ、どこだ…)
相変わらず頭は痛かったが、その痛みが寝ぼけた頭を徐々に覚ましていった。
見覚えのない部屋の景色に訝しげに目を細める。
……オレ何やってたんだっけ。
今日は朝から飛行機に乗って来たはずで。そんでもって恭弥の――…
「あー!恭弥!!!」
(そうだ、恭弥が急に殴りかかって来て!!)
こうなる前の記憶を何とか呼び起こして、わからなくなる寸前の光景が脳裏に浮かんだ。
がば…!!と身体を起こして、元凶になった少年の姿を探そうと頭を巡らす。
すると。振った事によって打撃を受けていた頭が、またズキン…と痛んだ。
「いってててて…」
ったく、容赦なく打ち込みやがって。
とりあえず恨み言を内心で言ってから、ディーノは頭を押さえようとしたが。
両手で挟もうとした片手が、重い何かに阻まれて上げる事ができない。
「―――……何だ、これ…」
不審に思って、阻まれた右手を見ると。
手首に巻かれた皮のベルトに、鈍く銀色に光る鎖がしっかりと繋がっていて。
その先はベッドの端で止められている。
えー…っと。
この状況から導かれる回答に、暫し思考を逸らそうとしたディーノだったが。
そうしなくとも、すぐに考えるのは停止させられた。
静かなその部屋に、訪れた人物によって。
「あぁ、目が覚めたんだね」
「……おはよう、恭弥…って、朝じゃねーか…」
いつもの制服の白いシャツにベスト姿で入って来た恭弥は、何事もなかったかのように平然と言うと。
ディーノに近づいて頭に手を伸ばしてきた。くい…と、前髪を掴んで上げる。
「いって」
「…傷が付いてるね。下手に避けようとするからだよ」
「……って、普通避けるって、あの状況じゃ」
こめかみに斜めについていたすり傷に、恭弥は口を寄せて舌先で舐めた。
ぴり…としたむず痒い痛みに、ディーノは顔を顰める。
どう考えても異様な状況だと言うのに、二人の間に動揺や緊張の色はない。
恭弥はともかく、不可抗力で此処に居るディーノに至っても。
まるで普段かわす軽口のように、ディーノは肩を竦めて言った。
「これってさ…、どういう悪戯だ?」
「…ふざけてるわけじゃないよ、あなたを拉致させてもらった」
「拉致…、監禁…って?」
「監禁か…そうだね間違ってはいない」
閉じ込めておこうと思ってるんだから。
続けた言葉は内心で呟いただけで。恭弥は、くしゃ…と、ディーノの金髪を撫でた。
そんな珍しい仕種に、ディーノは今までで一番、驚いた表情を浮かべる。
優しく髪を梳くように通り過ぎた指に、目を見張った。
「……どうしたんだ、お前」
「あなたを、閉じ込めておきたかった。ただ、それだけだよ」
「―――……恭弥…」
「…まだ用事を済ませてないから、少し離れる。手枷はこれで外れるよ、ただし…」
――部屋の鍵は中から開かないけどね。
そう続けて、銀色の鍵をベッドに放ると、恭弥は部屋から出て行った。
がちゃり…と、扉を締める重い鍵の音を残して。