戻る

◆付き合って数年後です。乙女度がかなり増しています(笑)
何個かある初めて物語の一つです。そーゆうの多すぎですよね…。
しかし、熟年夫婦も良いですが、最初に紆余曲折ある方も面白いと思います(笑)
アクションは少ないです。二人でいちゃこらしてるだけ…、裏度は低め。
5.4発行だったので、雲雀の誕生日ネタです。またかよー(笑)


<冒頭部抜粋>


電話の声から、メールの文の端々から、浮かれた様子が伝わってくる。

恭弥は本日届いた数通目のメールを見て短く溜息を付くと、何も操作する事もなくパタン…と機体を閉じる。
返信をしないのはいつもの事だ。どうせ返事も必要のない他愛もないメールなのだ。

飼ってるカメが巨大化しただの、部下とちょっと離れて転んだだの。おおよそ物騒な組織に組してるとは思えないくらい、とぼけた日常。
良くもまぁ毎回ネタが尽きないなと呆れるが。それを来る度に読んでしまうあたり、自分も付き合いが良いなと思う。

(それにしても…)と、先ほど読んだ文を思い浮かべた。

常よりも過剰に弾んだような言葉で、ハートマークすら付けて浮かれっぷりが倍増しなのをアピールしていた。文章でここまで伝えられるのもある種の特技なんじゃないだろうか。
元々軽くて明るい男だったが、これほどまでに馬鹿になっているのには理由があった。
本人は隠しているつもりだろうが…

ちらりと視線を流してカレンダーの日付を確認する。
本日は5月3日。日本ではゴールデンウィークの真っ最中で、全体的に浮き足立っているが、彼の場合休日が理由ではない。
もうすぐ来る自分の誕生日を迎える為に、逸る気持ちを抑え切れていないのだ。

彼と出会って何故か共に居るようになって、そして恋人まがいのやり取りをして。
それから早…、3回目の誕生日を迎える事になる。

当時はまさかこんなに長い間関係が続くと思わなかったが。驚くべきは自分の心の変化だった。
鬱陶しいと思っていた存在が気に掛かる者へ。そして3年を経て、今では居ないと物足りない相手に。そんな変化をもたらしたのは、ひとえにめげずに纏わり付いて来た、彼の行動の賜物だと思う。
誕生日という行事もその中の一つだ。
毎年この日が近づくと浮かれ始めるのだから、忘れていても気づいてしまう。自分の誕生日なんて彼と出会うまでは気にした事もなかったのに、今では否応なしに意識する日になった。

しかし、今年は少しだけ違う。
彼が覚えてるかは知らないが…、今年のこの日は特別な日だから。
自分も心待ちにしていたのは否めなく、相手に釣られるように心に落ち着きがない。勿論、表情に出るような事はないが。

(あっちは、毎年と同じような感じだから…忘れてるんだろうけどね)

3年程前にした約束をしっかりと思い出して、恭弥は口端を釣り上げた。
ようやく来たこの日。思えば良く我慢できたものだと思う。

(もうすぐだ…)恭弥は彼の髪を撫でるように愛しげに携帯に触れ、唯一の連絡手段のそれに口付けた。



* * *



「恭弥ーっ!元気だったか?」

場所は高校になれど変わらず応接室を陣取っていた恭弥の元に、これまた常と同じに駆け込んでくる人物――ディーノは、恭弥を見るなり、がばぁ…と抱きついて来た。
でかい図体が勢い良く飛びつくのだから普通はよろめくだろうが、恭弥はドアが開いた瞬間に身構えた為微動だにしない。
ここにノックもせずに入ってくるのはディーノくらいだし、ついでに入って来た瞬間の行動も同じだから読めるのだ。

だからと言ってそのまま抱き締めるわけでもなく、暫く好きなようにさせてから、ぽい…と押し退ける。
それもまた通常の事で、ディーノも拗ねたりせずに慣れた様子でソファーに座った。

「相変わらず、休みだって言うのに学校に来てるんだなー」

ゆったりと座って寛ぐ相手を一瞥してから、自分は机に向かい途中だった仕事に向かった。
来客を完全に蔑ろにしているが、ディーノは咎めはしない。一見無視しているように見えても、ちゃんと言葉を聞いている事は知っているからだ。

「やる事はあるからね」

その証拠に短くとも答えが帰って来て。それだけでディーノは満足そうに笑みを深めた。
緩んだ表情を見せる相手にちらりと視線を向ける。今夜の事を考えると自分までも釣られてしまいそうで、恭弥は誤魔化すように長く息を吐いた。

誕生日は明日。しかしディーノは必ず4日の午後には来て、そして自分のホテルに誘うのだ。
理由を聞いたら「0時になった瞬間に誰より早くお祝いを言いたいから」と答えた。
恭弥にとっては馬鹿馬鹿しかったが、あまりにも嬉しそうに言うから、つい絆されて付き合ってしまっている。

「なぁ、今夜は泊まるよな?」

暫くして仕事にもキリが着き、とんとん…と書類を合わせて整えていると、それを見計らってディーノが聞いてくる。
すでに伺う言葉じゃなく確定的に言っているのに呆れるが、断る気も無いかったから「あぁ」と頷いた。

立ち上がるのに合わせてディーノが近づいてくる。
了承された事に更に相好が緩んでだらしない事この上ない。
それでも、この嬉しそうな顔に自分までも満たされる事を最近は受け入れていた。

今まで色々葛藤はあったが結局は同じ答えに行き着くのだ。自分もまたディーノと同じ気持ちを持っている。
彼と同じように好きなのだと。

(だからこそ…、待つ気にもなったんだ)

内心で呟きながら恭弥が歩きだすと、当然のように横に寄り添って着いて来る。
外の正門には、待たせてある彼の部下の車があるに違いない。
毎年決まった日に日本に来れるような立場じゃないのに、どう工面しているのか不思議なものだ。
部下も黙認しているのだから、相当に甘やかされているな…とこっそり思いながら、恭弥はディーノと共にホテルに向かった。


戻る