◆ありがちな時事ネタ。ディーノさん誕生日おめでとう!
※女装ネタが嫌いな人は見ないでください。





普段から愛想は良い人だ。
加えて自分の誕生パーティともなれば、笑顔が増しても当然だろう。
しかし今日の彼は一味違っていた。

愛想が良いを通り越して、だらしないくらい顔が緩んでいる…ように見える。

ボンゴレボスとして、また個人的にも祝いに来ていた綱吉は、
ディーノの緩みっぱなしの笑顔を見てそんな感想を抱いていた。
とは言え、それに気付くのは彼に親しいごく一部だろうが。

「何か、今日は上機嫌ですね…」

来客にくまなく挨拶をしているボスを壁際で見守っていた腹心に綱吉は話しかけた。
すると、ロマーリオは「そのうちわかる」と意味深な言葉で肩を竦めた。

(あ、やっぱり何かあるんだ…)

言い方から察するに、このパーティ中で何かがあるらしい。
もしかして、守護者を連れてくるなと言うのに関係してるのだろうか。
いつもはボンゴレの守護者共々呼びたがるディーノなのに、何故か今日は綱吉だけだ。

よくよく周りを見ると顔ぶれも違っているような気がする。
身内が多い常のパーティとは違って、遠い同盟ファミリーや取引先が多いようだ。

不思議に思っていると何か用事があるのか、ディーノは一旦退室した。
そしてさほど時間置かずに、再び会場に現れる。

その時、会場内にどよめきが起こった。
ディーノは最初は居なかった女性と連れだって入って来たのだ。

共に現れたのはモデルばりの長身で長い黒髪が印象的な女性だった。
遠くて顔が良く見えないが、あんな雰囲気の人、同盟に居たっけな…?と思っていると。
ふいにディーノの顔が見える角度になり、綱吉は驚いて瞬きをする。
彼は、こうした公式の場では見せた事の無い、それはもう嬉しそうな笑顔を浮かべていたのだ。

(え…)

綱吉はその笑顔を知っている。
ディーノがそんな無防備で蕩ける笑みを見せるのは、ただ1人だけ。
彼の恋人、雲雀恭弥だけだ。

「ひ、…ヒバリさ…」
「やっぱりボンゴレ十代目の目は誤魔化せないなぁ」

ぼそ…と呟いた言葉にロマーリオが反応した。それは肯定されたようなものだ。
幸い寸前で小さな呟きにした為、誰にも聞かれていないようだ。

ディーノは優雅な身のこなしで身体を寄せ、本当に女性をエスコートするように腰に腕を回していた。

黒のロングウィッグでサイドに髪をかけ輪郭をぼかして。前髪も長く斜めに流して女性的な雰囲気を出していた。
自然に見せてはいるが、化粧はかなりきっちりされていて親しくしているものでも殆どわからないだろう。
綱吉が気づけたのはディーノの態度によるものだ。

藤色から紫紺へグラデーションを付けたアイシャドウは、妖艶さまで醸し出している。
紫のロングドレスに、浅めのヒール。身長は高いが、横に並ぶディーノもまた長身だから並んで違和感がない。
元々細身だからドレスもまた似合って…いるように思える、が。

「良く…了解しましたねぇ…」
「ま、特別な日だからな。恭弥はボスに甘いから」

それは知ってますけれど。と肩を竦めて2人の動向を見ていると。
ディーノは連れ立ったまま客に挨拶しているようだ。そして話しを聞いた全ての人が一様に同じ反応を示していた。
一体どんな紹介なんだか、と興味津々でさりげなく近づいて。近くの客と談笑しているふりをして様子を窺う。

「ごきげんよう、ディーノ。…その方は…?」

往々の客と同じように、どこかの令嬢が2人に近づいて、声をかけた。
はたから見るだけでわかる。彼女はディーノに気があるのだろう。
ディーノへ向けて甘い声で話す、ブルネットの巻き毛が美しい女性は媚を売るようにシナを作っていた。

そんな仕草にも全く態度を変えず、ディーノは外に向ける営業スマイルを貼り付けて。 
さらり…と今まで答えてきた言葉を繰り返した。

「あぁ…、紹介が遅れて申し訳ない。彼女は…私の婚約者ですよ」

それを聞いた、その女性もまた、今までの客と同じ反応を見せたのである。
すなわち、驚きも顕わに目を見開いてしまったのだ。


* * *


「ははは、すっげーよ恭弥。誰も気づかなかったな!お前女優になれるぜー」
「僕に不可能はないよ」

適当に挨拶をして回っただけで恭弥はすぐに会場を後にしていた。
結局居たのは半時ほどだ。それでも、周りに与えた影響は計り知れない。
何せ、全く女の影を見せなかったドン・キャバッローネだ。
唐突にお披露目会となった会場は、主役が居なくなった後でも騒然となっているだろう。

今は、暫くの休憩を兼ねて時間を貰い、休憩室に居る所だった。

「しかし…、変な誕生日プレゼントを要求してきたものだよね」

未だ女性の格好のままで、恭弥はソファに座るディーノの前に立つ。
ディーノは見上げて腰と太股に腕を回すと、ぎゅぅ…と身体を引き寄せた。
お腹の辺りに頭を擦り付け甘える仕草に、恭弥は小さく苦笑しながらも頭を撫でてやる。

普段だったらこんなに甘やかしはしないが、やはり今日は特別な日だったから。
ディーノもまた、何度も共に過ごして来たこの日は恭弥が格別に甘い事を知っていた。

「オレに取っちゃ、最高の贈り物なんだぜ」
「…とてもそうは思えないけど?」

クスクスと小さく笑い返事をする恭弥に「だってな」とディーノは答える。

「公衆の面前で恭弥を恋人ですって宣言出来たんだ。こんな嬉しい事はねぇよ」
「……あなたに娘を当てがおうとしていた輩も居たようだけど?」
「それの牽制も入ってるんだよな、実は」

しれ…と答えたディーノに、恭弥は「そうだろうね」と呟いた。
そろそろ結婚を考える年になったディーノに、群がるファミリーは多いだろう。
自分の娘を…と売り込みに、取引先やら同盟の客達の縁談の話は後を絶たなかったに違いない。
それもこれも、ディーノが一人身だからだ。 

恭弥の出自などは一般の人だからと曖昧にしては居たが。
身元不明の婚約者とは言え、ディーノ自ら紹介した存在は大きい。
心に決めた人が居る、とこれからは断りやすくなるだろう。

「…恭弥だって、それを見越して。こんな変なお願い聞いてくれたんだろ?」

ぎゅむぎゅむと腰を抱くディーノが問いかけると、恭弥は薄く笑みを浮かべるだけに留めた。
片膝をディーノの横のソファについて、クイ…と顎を取り顔を上げさせる。
スカートから見える足を横目で見てドキドキしながらも、ディーノは逆らわず見上げた。
そのまま降りてくる口付けを受け止める。

「ん…ぅ…」
「…ふ、あなたに移った。…僕よりよほど似合ってるよ…」

唇を擦りつけるようにキスをすると、ルージュがディーノの唇に薄く乗る。
瞼を軽く上げて、そんなの事ねぇのにな…とディーノは思った。

恭弥が恭弥とわかるような仕上がりだったら、計画は止めようと思っていたのだが。
出来栄えは想像を遙かに凌いで、本気で美人になって登場した恭弥に、目を奪われたほどだった。
惚れた欲目だけじゃない事を、後で綱吉にも確認しよう…とか思っていると。
ふいに体重をかけられて、ディーノはソファに押し倒される。

「…あんま時間ねぇんだけど?」
「僕はもう用事は終わったからね。知らない」

休憩であまり長く外すと、あらぬ疑いをかけられるんだけどな…。
ディーノはこの場合は、何も知らない親しい男どもに冷やかされる事になるだろう。
実際は…、反対なのだが。

しかし止めた所で止める恭弥でもなく。
それでも後の事を気にしてくれているのか、服が乱れないように丁寧に脱がしていく。

「あ、のさー…。何か、お前がその格好だとすげー倒錯的なんだけど…」
「余計に興奮するかい?僕は自分の姿はわからないから、構わない」
「んな事言って、女装を解かないのはワザとだろうが…」

呟いたディーノに、恭弥はまた薄く微笑むだけだ。
恭弥の肯定のサインのようなもので、ディーノは苦笑する。
この姿で襲われるのに戸惑っているディーノを、見て楽しんでいるのだ。

(これも目的のうちかなぁ…?)

次第に確信を持って動いて行く手に呼吸を荒くしながら、ディーノは思った。
やけにあっさり引き受けたと思ったけど。恭弥には恭弥の楽しみの為らしい。



「…僕だって同じだよ」

恥かしがるディーノに散々悪戯して、繋がってから。恭弥は掠れた吐息混じりで言う。
快感に朦朧とした頭で見上げると、美しい…自分の愛する人が、艶やかに微笑んでいる。

「公式の場であなたを独占出来る…、こんな嬉しい事はない」

それが、引き受けた理由の事だと知って。
ディーノは甘い声を上げながらも、彼に手を伸ばして強く抱きしめた。

「誕生日おめでとう、ディーノ…。愛しているよ」
「ぁ…、恭弥…。オレも、…オレもあいして、る…」

互いに熱が昂ぶり溶け合っていく中で、耳元に囁かれた言葉は。
他の何よりも嬉しい、誕生日プレゼントだった。



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2010.0209
とうとう間に合わなかったのです…、がくり。ディーノさんすみません。えぐえぐ。
しかもこんなネタ(笑)つか、こんなネタだったからなのかとっても難航したという(笑)
きっと恭弥の呪いだ…。4日から今までの期間は独り占めしてたんですよ(…)

ディーノさん誕生日おめでとう!いくつになっても、やっぱり愛してます!
何と。3回目なんだよ〜凄いよね(笑)