◆ありがち?な時事ネタ。10/14日編。



何処から人が溢れて居るのかと、溜息が出る程にホールの中は人でいっぱいになっていた。
緩やかに流れるオーケストラの音色。人々の話し声。
その中でも一際人だかりのある中心で、今宵の主賓は笑顔を振り撒いている。

皆が我先にと祝いの言葉を掛けに向かっている中。
パーティの開始時間から大幅に遅れて、その人物はやって来た。

彼が一歩歩く度に、人だかりが自然と左右に別れ、道が出来て行く。
その様子に気付いた主役は、この場に似つかわしくない気配を漂わせている相手に。
「やれやれ」と内心で苦笑した。

本日、誕生日を迎えたドン・ボンゴレの元に。
公の場には滅多に顔を出さないと言われる雲の守護者が来訪する。

毎年行われるこの珍事に。
訪れた人々は、やはり「あの雲の守護者」と言えどボスには一目置いているのだ。
などとまことしやかに噂する。

それは綱吉にとってはマイナスになるものでは無いため、真実を知っていても訂正する事はなかったが。
本当の事を思えば、口元が引き攣りそうな理由だったりする。

ずかずかと無表情で近寄る雲雀に、集っていた客らはそそくさと散っていった。
群れを嫌う彼の性質を知って自ら離れる者も居れば。
群れを睨みつけて圧力をかける雲雀に恐れをなして離れて行く者も居る。

「少しは雰囲気に合わせた表情してくださいよ」

相変わらずの様子に、綱吉は僅かに苦笑して日本語で話し掛ける。
こうすれば殆どの相手に意味を悟られる事はない。
今日の雲雀の目的を回りにばらさない為にも、毎回、綱吉はこうするのだ。

「あの人はどこ?」
「…1回くらいオレに祝いの言葉をかけて欲しいものですけど…」

目的が自分を祝う事じゃない事くらい知っていたが。
開口一番がそれでは、少しは恨めしくも思えてしまう。

「散々、あの人から祝って貰ったんだろ?」
「そりゃー…、誰よりも早く来てくれて。ゆーっくりお相手して頂きましたけどね!」

わざとひけらかすように言う綱吉を、ぎろりと雲雀は睨みつける。
自分がなかなか会えないのを知っておきながらの言い方に殺気すら溢れそうになって。
綱吉は慌てて取り繕った。周りの客に悟られるわけにはいかないのだ。

「こ、この後は全部譲るんだから、良いでしょ」
「当然だよ。…で、何処に居るの?」
「今日は、2階の雲雀さん用の部屋に通しましたっ」
「あぁ…わかった。じゃあね」

それだけを聞くと用件は済んだとばかりに、踵を返して去って行った。
その背を見つめながら、はー…と綱吉は溜息をついた。

(この日に必ず此処に来る事を知っていて、ディーノさん目当てに来るんだもんなぁ…)

綱吉がボンゴレボスに正式に就任して、誕生パーティをやるようになって。
いつの間にかそんな恒例になっていた。
そしていつの間にか、自分の元に一度でも挨拶に来る代わりに、その後は一緒に過ごせば良いと。
暗黙の取り決めが両者…いや、ディーノも得ているから3者の間で交わされていたのだ。

綱吉にしてみれば、雲の守護者が己の元に来るという事を回りに見せる為。
後の2人は…言わずもがな、だ。

(ま、…それで公式の場に少しでも来てくれるのは助かるけどね)

自分だってディーノと夜通し話したりしたいのに…。
幾ばくかの羨望を抱きつつも、二人の関係を思えば邪魔も出来ないと。
綱吉は再び集まりだした、他ファミリーへの応対に戻って行った。


* * *


「おめでとうの一言くらい言ってやれば良いのに」

言われた通り、自分用と当てがわれた部屋にディーノは居た。
先の様子を聞いたわけではないが、大体の予想はついてディーノは肩を竦める。
咎めるような言い方に、恭弥は目を細めて口を結んだ。
機嫌が悪くなった証拠だ。

「どうせ挨拶しに行くなら、簡単だろ?」
「…簡単でも、僕は言いたくないね」

特に何か想いがあって言ったわけでは無かったのに。
思いのほか恭弥が強く拒否を示したのに、不思議そうに首を傾げた。

「なんで?」
「…本当なら、こんな所じゃなくて。1日あなたを貸しきりたい日なのに」

む…、とした顔で視線を合わせずに言う恭弥に、ディーノは瞬きをする。
向かいのソファに座り、ワイングラスをくるくると回している不機嫌そうな恭弥を見て。
ディーノは一瞬間を開けてから、く…と喉を鳴らして笑った。
それにはますます視線が険しくなり、睨みつける。

「案外、記念日を気にする方だったんだなぁ…」
「……なんだ、忘れてたわけじゃないんだね」

くすくすと笑っているのには腹が立つが、相手が覚えて居た事は良かったらしい。
机にグラスを置くと、恭弥はディーノの元に歩みより片足をソファにかけて見下ろす。

「ずっと何も言わないから、忘れてるんだと思ってた」
「それはオレの台詞だって。…恭弥が毎年此処にくるのは、ツナの誕生日でオレが来るから、ってだけかと思ってたぜ?」

見上げたディーノは手を伸ばして恭弥の頬を撫でる。
その甲に己の手を重ねれば唇に持っていき、ちゅ…とキスをしてから舌先で舐めた。
擽ったい感触にディーノは肩を竦める。

「あなたが僕を差し置いて、沢田の所に来るから…自然とそうなっただけだよ」
「そりゃー…仕方ねぇなぁ。オレが今日来ないわけには行かねぇもん」
「だから、嫌なんだ。絶対に祝いの言葉なんて言ってやらないから」

駄々を捏ねるように言って横を向く恭弥に、ディーノは微苦笑してその腰に腕を回し。
ぎゅぅ…と抱き締めて頭を胸に摺り寄せた。
あやすように恭弥の背を撫で、ぽんぽん…と優しく叩いていると。お返しに金の髪が撫でられる。

「ごめんな?…お前と出会った日…って言う大切な日に。お前だけを見てやれなくて」
「……むかつく…。わざわざ言わないでくれる?」

低く静めた声で恭弥は唸るように言うと、乱暴にディーノの顎を掴んで上向かせた。
全く抵抗なく蜂蜜の瞳が上向けられ、近寄る唇を受ける。
性急に貪るようなキスが降りてきて、すぐに辺りに湿った音が漏れた。

「は…、ぁ…」
「でも…、この時間を設ける配慮に、目を瞑ってあげる…」
「ふふ…それは、ツナに言わなきゃいけないんだぜ?」

そのまま力が込められるのに逆らわず、ディーノはソファに横倒しになり、覆い被さる恭弥を抱きとめた。
笑い混じりに言うディーノには「知らない」とだけ答え、首筋に噛み付く。

ドン・ボンゴレの生誕祭の裏で、知られざる記念日。
それは2人だけが知っている、特別な日。


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2009.10.14

すみません、5分ほど遅刻しました(笑)
つーか、忘れてたんですよねー…、なのでかなり書き殴りで申し訳ないです。
ツナ、誕生日おめでとう(笑)文中で言われてないので、ここで(笑)