◆ありがちな時事ネタ。えいぷりるふーる。


“Ti odio”

暫く連絡が途絶えていたと思ったら、唐突に送って来たメールにそんな事が書かれてあって、恭弥は眉を寄せた。
解読できない言葉にイラ…っとする。自分は日本人なんだから、彼の言葉で書かれてもわからないのだ。

しかも、久しぶりに連絡を寄越したと思ったら、そんな意味不明の一言だけ。
眉間に皺を寄せたまま、じぃ…っとディスプレイの画面を見る。

似たような言葉を知っているが、それとは違っていた。
全く知らない単語ではあるが…、どうにも嫌な感じがする。

そんな素っ気無い文字のメールなんて、無視する事も出来たのだが。
パタン、と携帯を閉じてポケットにしまった後も、あの文字が脳裏から離れなかった。

無理矢理、風紀委員の仕事を始めようとペンを握って机に向かう。

チ、チ、チ、チ…、と時計の秒針の音が聞こえるほどの静けさが応接室を包んだ。
暫くカリカリとペンを走らせていたものの。
恭弥は時計の音にも似た舌打ちを、ちっ…と、鳴らす。

集中出来ない自分を、誤魔化す事はできなかった。
さっきのメールが気になって仕方ないのだ。

恭弥は長く長く、はぁー…と溜息を吐くと。ペンを苛立たしげに机に叩き付けた。
そして立ち上がり、応接室を出て行く。

その時、丁度授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
丁度良いタイミングだ。一応授業の邪魔はしないで済む。
授業中だろうと何だろうと、教師にすら文句は言わせないが。邪魔をした事で並中の学力が下がるのは宜しくない。

目指す教室に向けて恭弥は大股で、ずんずんと歩いて行く。

休憩の時間になって開放された学生達が次々に廊下に出て来るが、恐怖の風紀委員長を見るや否や、慌てて教室へ引っ込んで行った。
おかげで人に邪魔をされる事もなく、恭弥は目的の場所に早々に辿り着く。

ガラ…ッ

目指していた教室に辿りついて、おもむろにドアを開けた。
おのおのでざわついていた教室内が一瞬で静まり返る。
中には青ざめて口元を引き攣らせる生徒までも。

例に漏れず引き攣りまくっている1人の生徒と
何も感じて居ないように目を瞬かせている生徒と
眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいる生徒。

いつもの3人で群れになっている彼らの所へ、恭弥は一直線に向かう。

「ヒィィィ…っ、ひ、ひばりさん!?」
「ヒバリ?珍しいなー、こんな所に来るなんて」
「…んだよ、てめー。何の用だ」

三人三様のリアクションをしながら、綱吉と獄寺と山本は、唐突に現れた風紀委員長に目を向けた。

恭弥はそのいずれにも反応を示さず、おもむろにポケットから携帯を出すと。一番険悪な顔をしている獄寺隼人の前に画面を突きつける。
不躾な態度に、当然彼の眉間の皺はますます深くなった。

「んだぁ…?喧嘩売ってんのか?」
「それは望む所だけどね。…君ならこれの意味がわかるだろ、なんて書いてある?」

唐突な行動に補足するように恭弥が言うと、今にも殴りかかりそうだった獄寺はつい意識をディスプレイに向けていた。
親切心だったわけじゃなく、そう聞かれて中身に興味を引かれただけだ。
目を細めてその文字を見て…、そしてますます嫌そうな顔になる。

「意味がわかって見せてんなら、果たすぜ…!!」
「わー!ご、獄寺君。抑えて…!!ヒバリさんは読めないだけなんだから、お、教えてあげようよ!」

掴みかかろうとする獄寺を後ろから必死に引っ張り、綱吉が止めると。
「じゅ…っ、十代目がそう仰るのでしたら何なりと…!!」
と獄寺はころりと態度を変えて綱吉に笑みを見せた。

「ねぇ。ごちゃごちゃ煩くしなくて良いから早く言いなよ」
「んだと、てめぇぇぇ!!」
「獄寺くん!穏便に…!!!」
「…ぐ。…十代目の手前、仕方ないから見逃してやる…。その言葉の意味は、オレがお前に言いてえ事だよ」
「…回りくどいよ、さっさと言いなよ」
「てめぇなんて、でぇ…っ嫌ぇだ!って書いてあんだよ!」

獄寺は眉間に青筋を立てながらディスプレイを指差して、恭弥にそう突きつけた。
恭弥と言えば。ピク…と頬を僅かに揺らしたものの「そう」と言うと、携帯をパタンと閉じる。
しかし表情には出てないものの、一瞬で周りの空気が切れるようなものに変わった事を、綱吉の超直感が告げていた。
(ヒィィィー!!!)一触即発か…!!と引きつって見ていたものの、恭弥はそのまま踵を返して教室から出て行った。

「…何なんだよあいつぁ…」
「何だろうねぇ…?」

ようやく押さえていた獄寺の腕を離し、綱吉は首を傾げる。

「本当にそんな言葉が書いてあったの?」
「え?えぇ、…あれは絶縁状とでも言って過言ではない言葉ですよ。直訳だとお前が憎いとか、そんな意味で」
「えぇぇぇ!?…そ、そんなの…ヒバリさん、どうするんだろ」
「……あれ、ヒバリが打ったんじゃなくて、メールみたいでしたよ?」
「えっ!?なおさらびっくりだよ!あのヒバリさんにそんな文送るなんて」

獄寺の説明を聞いて綱吉は当事者でもないのに、サァァァ…と顔を青ざめさせていた。
その横でのほほん、とやりとりを見ていた山本は一言。これまたのほほんと、言ったのだ。

「ははは、多分あれだぜー?今日の日付、見たらわかるんじゃねー?」
「この野球馬鹿っ、突然何言ってやがんだ」
「日付…?あっ、そうか…オレわかっちゃった!それならメールの相手ってたぶん…」
「え、え?十代目?何がわかったんです?」
「あのね…」





教室を後にしてから、恭弥は再び応接室に戻っていた。
途中、がらの悪い連中がたむろしていたから、まとめて咬み殺したが苛立ちは治まりそうもない。
そもそも苛々している事自体に腹が立つのだ。

(何だって言うんだ…)

恭弥はドサリ、と乱暴にソファに座ると今の心境を表すように頭をぐしゃぐしゃと掻く。
別にどうって事ないはずだ。冗談なのか、本当にそう思ってるのか知らないが、あの軽い外人の言う言葉に振り回される謂れはない。
けれど…。

(普段、散々好きだの愛してるだの…煩いくせに…)

こうした言葉を言われたのは初めてだった。
だからなのか、存外に動揺してしまっている自分が居る。
別に自分から気持ちを言った覚えはない。何となく相手がそう言ってくるから、受け止めてやってるだけで。
彼がそう言うつもりならこの関係は終わるだけだ…。
そこまで考えて、馬鹿馬鹿しい…、と恭弥はため息をついた。

こんな一言を送ってくるだけの失礼な輩に、これ以上気持ちを傾けたくはない。
恭弥は気持ちを切り替えようとして頭を振ると、再度風紀委員の仕事に取り掛かろうとした。
その時。

「よう!恭弥ー!居るか?」

空気を読めない感じののほほんとした声が、ガラッ…と勢い良く開いたドアの音と共にかけられた。
冷静になろうとしていた頭が一瞬にして戻り、恭弥の眉間には皺が寄る。
そして無意識に愛器のトンファーを構えると、入ろうとして来ていた外人…、ディーノの喉元に突きつけた。

「おわぁっ!?…っいきなり、どーゆう挨拶だよっお前…!!」
「良くもそんな事を言えたものだね。あんなメールを送って来ておいて、よく顔を出せたものだ」
「えっ…、メールって…あれ意味がわかったのか?」

ぐいぐいと思い切り首を圧迫しているにも関わらず、トンファーの先を難なく押さえて飄々としている相手が憎い。
一人だと途端に情けなくなる相手だったが、接近した力が適わないのは嫌という程知っていた。
それにしても、と…恭弥はディーノの反応に眉間の皺をますます深くする。
やっぱり冗談だったのだろうか?あまりにも普段と変わらない様子に、絶縁状を叩きつけられたわけではないらしい。

「…何なの?一体…、わざわざ意味を聞いてやってきたけど。とうとう、あなたから縁を切ろうとしたのかと」
「わーっ!ちっっげーよ!…つか、ホントにわかんねぇ?…失敗したなぁ…」
「何?どう言う事?」

気まずそうに頭を掻くディーノに、恭弥は訝しげな視線を向ける。
糾弾するような目つきを、ちら…と見て。ディーノは微苦笑して答えた。

「4月1日。エイプリルフール…だよ」

ぼそぼそと言われる言葉に、恭弥は目を見開く。そして応接室の壁にあるカレンダーを、ば…っと振り返って見た。
それから日付を確認して言う事が間違ってない事を知る。
ようやく意味がわかって、ど…っと力が抜けるようで。恭弥は安心してしまっている自分に舌打ちしたいくらいだった。

「ごめんなー…、意味わからないからスルーしてるかなー…って思ってた。そんなに恭弥が騙されてるとは思わな…」
「騙されたりしてないよ…」
「っ!そ、そうだなっ…こんなのに引っかからないよな!!」

言葉の途中で殺気立った視線に睨まれ、ディーノは慌てて訂正する。
それを見て、恭弥は苛立ちが消えていくのを感じ、長くため息をついた。

「…あれが嘘って事は、本当は?」
「なんだよ、言わせるのかよ?ごめんな、心にも無い事を送って…本当は“Ti amo”…愛してるよ」

ちらりと視線を向ける相手にディーノは少しだけ照れた様子で笑みながら答え、後ろから恭弥を抱き締めた。
恭弥からの返事はなかったが、そのまま大人しく腕の中に居る事が返事だ。
すりすり…と肩口に頭を擦り付けていると、恭弥が身動ぎして振り向き、見つめてくる。

「恭弥?」
「僕からもお返しだよ…」

それから耳元に唇を寄せて、ディーノだけに聞こえるように言った。

“あなたなんて、大嫌い”

それは、愛してるの返答にはあまりにもそぐわなかったけれど。
今日と言う日を考えれば、これ以上ないもので。

「……っ、恭弥…それって…っ」
「さぁ…?捉え方は任せるけどね。何なら明日も言ってあげるけど」
「〜〜っ明日は言っちゃダメ!!今日だけ…」

そんな連れない事を言う恭弥を、ディーノは正面からむぎゅっ…と抱き締めた。
もしかして今日って、素直じゃない相手にとっては良い日なのかも…なんて事を思いながら。



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2009.04.14
あ、やべ。4/1って学校…やってなくないか?なんて事を気づいたのは書き終わってからです(笑)
すみません、学生はとうの昔に卒業しまして。中学校の時期なんて忘れたよ…。
そしてとうとう、大幅に日付を越してのネタでホントすみません…ふふ。
1日から書いてたのにこの体たらく。