◆ありがちな時事ネタ。姫初め編。


「お前、ホントに好きだよなぁ…」

正月もとうに過ぎた頃、2人は並盛の神社にタクシーで乗り付けていた。
不自由な衣装に足元をふらつかせながら車から降り、回って来て横に並んだ恭弥に向けて言った言葉である。
長い溜息混じりに呟かれた咎めるような響きに、恭弥は首を傾げた。

「何が?」
「こーゆう格好させるの、好きだよな…って言ったんだ」

何時ぞやの夏祭りを思い出して、ディーノは深々と溜息をつく。

桜色の生地に大きな華をあしらい、帯は雅な金色で豪華に結ばれていて。
いつもは無造作に跳ねている髪はサイドは残して後ろに上げられ、大きな生花で飾られている。
はてには薄く頬紅と口紅まで塗られ、遠目から見ると長身の美人にしか見えない。
ようは女物の振袖を着せられていたディーノだった。

忙しい合間を縫ってようやく日本に来た彼に、恭弥は珍しくも「初詣に行こう」なんて誘いをかけてきた。
群れが嫌いな恭弥と出かけれるのが嬉しくて、ついつい了承して2人になった瞬間。
当身を食らって気絶させられ、気付いた時にはこの格好でタクシーに乗っていた。
あまりの手際の良さに、来る前から計画していたとしか思えない。

「和服が似合うから着せたかったんだよ」

恨みがましく睨むディーノの視線をかわして、恭弥はさらりと言い放つ。
だったら普通に男物着せてくれよなぁ…と言った所で今更だ。こうなってしまっては、恭弥の気が済むように付き合ってやるしかない。
並盛で部下が居ない場所で、恭弥に逆らおうとしても労力の無駄になりかねないのだ。

ディーノはおぼつかない足取りで神社の中に向かおうとした。
すると、す…っと前に着て手を取って恭弥がゆっくりと引いて行ってくれる。
夏祭りの時にも女物の浴衣を着せられたが、確か手を引いてくれた覚えがある。
意外にフェミニストだよなぁ…と、内心で笑いつつ。外で手を繋げるなら、まぁ良いか…と従来の前向きな性格で思い直していた。

そうしてお賽銭を投げて参っただけの簡単な初詣を終えて神社から戻りながら、不思議に思っていた事を口にする。

「それにしても、人が居ねーよなぁ」

時期がずれているから初詣に来る人は居ないだろうが、今は昼間だ。
散歩なり普通の参拝なり、人が居てもおかしくはないのに、さっきから1人ともすれ違わない。
格好が格好なだけに人目に触れたくないディーノとしては有り難いが、様子がおかしいのは間違いなかった。

「誰も来ないように封鎖してるからね」
「は?」
「群れが居る所に僕が行くわけないだろ。周辺の道路を押さえて誰も来ないようにしてあるんだ」

淡々と言う恭弥にディーノは空いた口が塞がらない。
そこまでする事だろうかと。呆れる気持ちで口元が引き攣る。

「何?あなただってその格好を見られなくて済んで良いだろ?」
「そりゃそうだけどさぁ…」

何がおかしいの?とでも言いたげにみつめられて、ディーノは苦笑した。
自分もかなり普通とは感覚がずれているが、恭弥も相当だよな…と。

「綺麗な顔が台無しだよ」

恭弥はそう言うと、歪んでいる眉間を見つめて指で突付いた。
そんな仕草には小さく笑ってしまって。やっぱり、まぁ…いいか、と思ってしまう辺り。
やっぱり自分も変わってるんだろうなと思う。

そのまま近づいて来た顔に僅かに身体を引くも、恭弥は腕を引いて唇を合わせてきた。
誰も来ないと聞いて居たからディーノも強くは拒まない。
常と違う紅の味を感じながら、次第にキスを深くしていく。

「ふ…、ぅ…恭弥…、この辺で止めろって…」

あまりにねちっこく舌を這わされるものだから、どうにも身体が熱くなりそうになってディーノは胸を押した。
しかし、緩く押す力など抑止力にはならない。恭弥は一歩踏み込んで再度身体を密着させると、少し背伸びをして唇を押し付ける。
しかも今度は着物の外から中心の辺りを手で擦るオプションつきで。

「んっ…、ぁ…きょう…や、こら…、待てって」
「反応してるくせに…」

重ねてある着物のおかげでダイレクトに感触が伝わるわけではないが、
深いキスの合間に中心を撫でられてしまっては、下着の中で窮屈になっても仕方がないと思う。

「お前とキスしてんだから当たり前だろ」
「そんな煽るような事を言って…、ここでされたいの?」
「ぁっ…、く……、ばか!」

ぎゅむ、と中心を掴まれるのにびくんと身体を揺らすが、ディーノはさすがにその手をひっつかんで離させた。
こんな明るい場所の、しかも神社などという神聖な場所で行う行為じゃない。
絶対に嫌だと視線に乗せて、じとー…と見つめていると、恭弥は暫く双眸を細めて居たが。
ふいに息をつくと、手を握り直して出口に歩いていく。
意外にあっさり引いたなー…と怪訝そうに後ろから見つめていると、それに気付いた恭弥は不機嫌そうに口をへの字にした。
それから視線は向けないまま低く静かな声で言う。

「本気で嫌がる事は、…わかるよ」

ディーノはちゃんと自分の心を読み取ってくれる恭弥に、すっかり機嫌を良くして。ぎゅ…っと繋いだ手を握り締めた。
結局は両方とも、惚れた弱みというやつなのだ。



* * *



神社からタクシーで戻った先は、とある旅館だった。
どうやらそこで着付けも行ったらしく、通された和室には振袖の小物や化粧道具やらが隅に置いてある。
ようやく身体を締め付ける帯を取れると息を吐いて、ディーノは帯を固定している紐に手をかけた。
この振袖という着物の絞めは浴衣とは比べ物にならないくらい苦しい。
しかし、解こうとした手は恭弥によって阻まれた。

「あなたがやると余計絡まるから、じっとしてて」

いい様には多少文句はあるものの、違いのない事だったからディーノは大人しく手を離した。
浴衣の着付けも出来る恭弥だから脱がす事くらい出来るのだろう。
開放して貰えるなら文句もないディーノは、手際良く帯を解いて行く恭弥を感心しながら眺めていた。

そうして重い着物が脱がされていき、肌襦袢のみとなった時。唐突に腕を引かれる。

「なんだ?」
「こっちにあなたの着替えがあるからね、来て」

もっともらしい理由に疑う事もなく隣の続き部屋に着いて行ったものの、襖を開けた光景には、ぶは…と吹き出した。
そんな動揺をしている間にグイと引かれ、おあつらえ向きに敷いてある布団に倒される。

「おわっ」
「……色気のない声だな。でも、補って余りある格好だから、いいか」

後ろ手に襖を閉めた恭弥の声に熱が篭っているのを感じた。
横に倒されて布団に寝転がるディーノは、白の肌襦袢の裾が乱れ足が覗いていて。
髪は未だ結われたまま、頬紅と口紅も残っており扇情的な事このうえない。

着物を脱がしながら煽られてしまった恭弥が、この状況で我慢するはずもなく。
身体を起こそうとするディーノを上から押さえつけた。

「あー、もう何、盛ってんだよお前はー…」
「あなたが誘うからいけないんだろ?そんなはしたない格好して」
「誰がしたんだよ、誰が!このシチュエーションすげー恥ずかしいんだけど…、って聞く耳ないなお前…」

薄暗い行灯と布団。女物の肌襦袢を着た自分を想像すると、まるで時代劇の濡れ場のシーンのようだ。
ただ、恭弥が普段と同じシャツと黒のズボンを履いているから、雰囲気にそぐわなくはあるが。

「さっき我慢してあげただろ?この場所で抵抗しても、僕は聞かないよ」
「…別にちゃんと着替えてからでもいい…、っん、ぁ…、もう…困った奴…」

裾から忍び込んで来た手に内股を撫でられ、ディーノの身体からは力が抜ける。
先ほどと違いここは閉鎖された空間だ。
もともと恭弥に触れられるのは嫌いじゃないディーノが今何を言っても、本気の抵抗だとは思って貰えないだろう。
…それにきっと、自分も本気で嫌がれない。
その証拠にちょっと肌を撫でられただけで反応してしまう自身を感じていた。

「…は…、ぁ…、…っ」
「…早いね、もう硬くなってる。…状況に煽られてるのは、僕だけじゃないみたいだ」
「ん…っ、…知らねーよ…、んなの」

例によって下着を着けさせて貰えなかった為、裾を左右にはだければすぐに反応していた自身が頭を擡げる。
腰紐まで襦袢の裾を捲り、恭弥はヒクヒクと震えるディーノのモノを握った。
するとビク…と腰が跳ねて、手で支えて起こしていたディーノの身体が布団に沈んだ。

乱れた裾からしどけなく晒される下肢が淫らに見えて仕方ない。
恭弥は無意識に唾を飲み込むと、脈打つ相手自身を上下に扱き始める。
途端に辺りに嬌声が響き、腰が小刻みに揺れた。

「ァ…、ぁ…っぅ、っん…ぁ」
「堪らない姿だね…、やっぱり良く似合う…、和服のあなたを見ると乱したくて仕方がない…」
「っん…ん、…お前…、こーゆ、う…趣味、あるよ…な、ぁ…っ…」

興奮した様子の恭弥に、喘ぎながらもディーノは呆れたように言う。
女装やらなにやら、普段と違う格好をするとより煽られているような気はする。
困った性癖があるもんだ…、と内心で思うが。つられて欲情してる自分では責められたものではなかった。

(そのうちとんでもない格好させられたらどうしよ…)

恭弥の未来を不安に思いつつも、後を慣らし始めた指に思考は溶けて行く。
そう言えば……、去年もしたな…。
ぼんやりとディーノは1年前の事を思い出していた。
ええと…、何て言ったっけ…これ。…あぁ、そうそう。

…ヒメハジメ、だったかな。


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2009.01.24
相変わらず全く間に合ってない正月ネタです…。
時事ネタのエロはさらりとかわしています、すみません(笑)
濃厚過ぎるのを時事ネタにしたくないのでー…って、過去にはありますが。
毎回最後まで書いてるとマンネリするというのが本音(爆)