★ディーノ、ディーノ…


「……なぁ、もうそろそろ止めといた方がいいんじゃねぇか?」

空になった恭弥のグラスにワインを注ぎながら、ディーノはそう窺う。
注いでもらった赤い液体をくるくると回しながら「どうして?」と恭弥は首を傾げた。

暫く前から、実に楽しげに口元に笑みが浮かんでいて。
頬は明らかに赤く、目がとろんと潤み。どう見ても酔っているのがわかる。
ようやく大っぴらに恭弥と飲めると思って、つい言われるままに注いでしまったが。
水みたいな感覚で飲む自分に付き合わせるには、さすがにまだ早かったようだ。

「もっと飲みたい、凄く美味しいし」

そんな風にくすくす、と笑う恭弥の呂律はずいぶん怪しくなっている。
いい感じの酩酊感を感じてるんだろうな。
気持ち良く酔えない体質の人もいるから、楽しめるのは幸いだったが。

……つーか。

(やっべ、可愛い過ぎる…)

ふわふわと上機嫌で笑う恭弥に、さっきからディーノの顔は緩みっぱなしだ。
さすがに近頃は大人びていた表情が、酔いのせいかすっかり蕩けて、幼ささえ感じる。
恭弥の倍は飲んでいるディーノだったが、彼はまだほろ酔い加減で。
そんな中、常に見ない恭弥の姿は、どうにもこうにも可愛くてたまらない。
ぎゅー…っと抱きしめて、それこそ襲ってしまいたいくらいの気分だ。

(しないけど、さ)浮かんだ考えにディーノは、苦笑する。
自分とて男なので、抱く方の立場をやりたくないわけじゃないが。
意識のはっきりしない時に、なし崩すのは本意じゃないから。
今はこの姿を目に焼き付けておこ…、と。
嬉しそうにワインを飲む恭弥を肴に、ディーノもくい…とグラスを傾けた。

「……ふ、ぅ…あっついし、…眠い」
「…やっぱり、飲み過ぎだな」

さすがに限界なのか、ソファに沈む恭弥に苦笑して、ディーノは立ち上がり、向いに座っていた彼の様子を窺う。
そのまま目を閉じそうになる彼の頬を撫でて、指でぺちぺちと突付いた。

「ほら、ベッドに行くぞ。こんな所で寝るな」
「…いいよ、ここで」

恭弥は面倒そうに言って立ち上がろうとしない。
仕方ないな…と、ディーノはその身体を、よいせ…っと、抱きあげた。

(さっすがに、重くなったな…)

出会った当初は軽々と持ち上がったもんだが。
でもまだ、どちらかというと細身だから、連れて行けなくもない。
「ほら、手かけろって」と恭弥を促して。自分の首に手をかけさせた。
抱えられる意思があるとないとでは、かかる負担が変わるからだ。

それでもずっしりとかかる体重を抱え直し、早足でベッドに運ぶ。すぐ近くにあって幸いだ。
ゆっくりとベッドに身体を降ろして離れようとした時。
ぐい…っと胸元を引っ掴まれ、ディーノは引き倒された。

「おわ…っ」
「行っちゃだめ」

掠れた低音で囁かれ、ドキ…としている間に視界が反転して。ベッドに押しつけられた。
力もずいぶん強くなったよなー…なんて思っていたら。
馬乗りになった恭弥が、顔を寄せてきてそのまま唇が重なる。

「眠いんじゃねーの?」
「……眠いけど、…したい…」

顔をずらして問うと、いつになくストレートにそう告げて、唇を追ってキスをしてくる。
もともと、やるだろうと予想はしていたけど。
恭弥の様子から、出来るもんも出来ないんじゃ…と思っていたが。

(……大丈夫そーだな)

太ももに跨られているため、触れる恭弥の状態が良くわかる。
しかもバスローブしか着ていない上に、どうやら下着も付けてないな。

前後不能まで飲むと勃たなくなるって聞いた覚えがあるが。
動ける所を見るとそこまで泥酔してるわけじゃないのだろう。
くちくちと入り込む熱い舌を絡めながら、ディーノが足を少し上げて熱いソレに触れると。

「……ふ…」

と、恭弥が熱く吐息を吐いて、口付けを離した。

気持ちよさそうな声に、ディーノは(ホント、めっずらしー…)と、目を見開く。
いつもは抑えてるんだろうが、酔いの所為で箍が外れてるらしい。
あんまり素直な反応をするから嬉しくて。もっと気持ち良くさせてやろうと下に触れようとした時。
恭弥の手がそれを遮った。

「……駄目、大人しく、して」
「何で?恭弥の誕生日だし、良くしてやりてーんだけど」
「だから…こそ、だ…よ。僕に…好きにさせて、あなたを…」

恭弥は取った手を口元に持って行くと、濡れた舌をこれ見よがしに出して、指を舐めた。
じ…っと見下ろす熱っぽい眼差しと、誘うように見せる赤い舌に、くらくらする。
加えて鼻にかかる甘えた声で、そんな風に言われては。
ディーノは(参った…)と微苦笑し。力を抜いてベッドに身体を投げ出した。

本当はもっと、恭弥の感じた顔を見たかったけど。
こんな状態でも恭弥の望みは、自分のしたいように、なのだ。

「来いよ…、お前の好きなように、オレをやるから」

身体を引き寄せて、ちゅ…と頬にキスをすると。
それはもう、嬉しそうに恭弥が微笑むから。

オレはそれだけで、全身にぞくぞくと甘い痺れを感じていた。


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2008.05.14