★珍しい顔を見れた
誕生日を勘違いして前日に来るなんて。あなたらしいとは思ったけど。
それでも、悪い気はしなかったよ。
応接室から送り出して、再び1人に戻った恭弥は。
機嫌が良さそうに薄く笑みを浮かべて、扉を閉めた。
そして残った仕事をやるために、ソファに座る。
でも。
(納得言ってない顔だったな、あれは…)
前もって言っておけば、きっと5日に合わせる事はできたのだろうが。
それを前もって伝えるほど、恭弥は誕生日に固執してはいなかった。
だから別に。前日だろうとなんだろうと構わなかったのだが。
帰る間際まで、元気のない様子だったあなたは。
きっと今ごろ仕事ゆえに帰宅しないければ行けない現状を、悲しんでいるのだろう。
(馬鹿な人…)
暫く時間をかけて全ての書類に目を通し。恭弥は、ぱたん…と、それを閉じた。
ディーノが忙しいのは、彼の立場上仕方ない事だ。
偶然、前日に来れただけでよしとすれば良いのに。それで満足できない、彼の気持ちは良くわからない。
この日にどれほどの意味があるというのか。今日だろうと、明日一つ歳が増えようと。
自分にとっての変化など何にもないし。今まで、誕生日を祝ってもらおうと思った事もない。
大騒ぎするディーノの気が知れなかったが。
(どちらにせよ、もう終わった事だ)
彼は帰って行ったし、それ以外に自分を祝おうとする者なんて居ない。
群れさせたくないため風紀委員には伝えてないし、日常が戻るだけだ。
恭弥は適当に机の書類を片してソファを立つと。
閑散とした廊下を歩き、帰宅して行った。
*
その夜。
あと10分くらいで日付が変わろうという時間に。
自宅でのんびりと武器の手入れをしていた恭弥の、携帯が鳴った。
恭弥は視線を上げて、着信を告げる携帯を怪訝そうに見つめる。
こんな夜に不躾にかけてくる奴なんて、1人しか思い当らない。
しかしその人物は現在雲の上のはずだ。かけて来るとも思わなかったが。
(気にしていたから、何とかしてかけてるんだろうか)
電話なんかが繋がってもな…。と思いつつも。
恭弥は鳴り止まない携帯を手に取った。そして案の定の人物に、溜息をつく。
あれ…、でも。名前が出るという事は。機内電話じゃないという事だ。
確か飛行機内って、携帯使えないんじゃなかったっけ…
飛行機にあまり乗った事のない恭弥は、記憶に首を傾げながらも。
その疑問ゆえに電話に出る。
『恭弥…!出るの遅いって、間に合わないかと思って心配したぜ』
「あなた、何してるの?携帯使える所って飛行機内にあった?」
『…………、あのさ。ちょっと外見てくれねぇ?』
「は?」
『いいから』
意味不明な言葉だったが。仕方なく窓から外を見ると。
「…………っ!」
信じられない姿がそこにあるのを見て。恭弥は息を飲んだ。そして、慌てて外に出ていく。
「なっ…、何してるの…あなた」
「はは。すっげー…、慌ててる。珍しい顔だな。来たかいがあった」
「――――……何で」
確かに、ディーノの言う通り。自分はおそらく珍しい顔をしているのだろう。
それくらいに動揺を感じていたから。
呆然と呟いた恭弥に、ディーノは照れたようにはにかんで。
つい…と、手に持っていた薔薇の花束を渡す。
「お前が生まれてくれた日は、オレにとっても特別だからさ。だから、どうしても祝いたかった。
…出会ってから最初の誕生日だ。おめでとう、恭弥。…愛してるよ」
歯の浮くような台詞を並べたてて、そして100本はあろうかという大きな花束。
普通こんな事をすれば、嫌みったらしい事この上ないが。
さすがに板についているこの外人は、さらりとこなして自然だったから。
つい、差し出されるまま。受け取ってしまった。
「……仕事は、どうしたの」
「あぁ…、何とかした。帰った後、大変な事になってそうだけどな…」
「無理をしてまで、するような事?」
「言ったろ?特別な日だって。この日があって、お前が生まれて。ここに存在してくれて。
だからオレとも出会えて…。お前は何でもないような事言ってたけどさ。オレは特別だって、そう思ってる」
だから、今日…会えて良かった。まるで自分の事のように、嬉しそうに笑って。
ディーノは俯いていた恭弥を、ぎゅ…っと。抱き締めた。
恭弥はそれを避けようとはせず。目を閉じる。
そして、信じられない感情が、溢れているのを感じていた。
嬉しい…と、素直に思っているだなんて。
「…恥ずかしい…人だな…」
それでも口をつくのは、心とは違う事だったが。
大人しく腕の中に居る事で、ディーノは感じ取っているらしい。
「はは、…そうだな」と軽く流して、さらに腕の力を強くする。
「でも、オレ…これから先もずっとこうして祝いたい。恭弥も、どうでも良い日だなんて思わないでくれよ」
「……あなたのせいで、特別になりそうだよ。僕も…」
「恭弥…」
腕の中からの恭弥の言葉に驚いて。抱き締める力を少し緩め、ディーノは視線を降ろす。
すると、恭弥もじ…っと見つめてきて、暫く視線が重なった。
「ねぇ…、こんな時間なんだから…、明日まで居られるんでしょ?」
「…あ、…あぁ…明日の昼までは大丈夫だ」
「どこか取ってある?」
主語のない言葉に、一瞬首を傾げるが。
それが宿泊場所の事だとすぐに気付いて頷く。
「あぁ。昨日までの所を、延長してある」
「じゃあ、今から行くよ」
「え?…って、こんな夜中に出て、大丈夫か?家とか」
「それは気にしないでいい。…プレゼントのついでに…、あなたも欲しい…」
「……っ、昨日しただろ…?飽きねぇの?」
ストレートな言葉に少しだけ頬を上気させ、ディーノは苦笑した。
恭弥は受け取った花束に顔を近づけ、咽るような薔薇の匂いを吸い込む。
「…昨日とは違う、特別な日…なんでしょう?」
そうして、顔を上げ微笑んだ顔に。
それが昨日までとは違う、あまりにも柔らかくて優しい顔だったから。
返答できずに、ぼう…と見惚れてしまった。
(本当に…珍しい顔を見れたな…)
仕事の都合を変えるのは、かなり無茶をしたが。
恭弥のこんな様子を見れたのだから、報われると言うものだ。
「……わかった、行こうぜ。恭弥…」
ディーノは再び恭弥を抱き締めると。
その肩を抱いて、待たせてあるタクシーへと歩いて行った。
*
部屋に入るや否や、2人はベッドに直行して、唇を深く貪り合う。
こんなに性急に求めあうのは、もしかして初めてかも知れない。
いつも大抵はなし崩しで始まる行為だったが。今夜は違っている。
互いに、欲しいと思っているのがわかるから。
もどかしげに衣服を取りさって、恭弥は常のように、ディーノの胸に顔を埋めようとする。
それをディーノは、やんわりと制した。
「……何?」
ここに来て行動を止められて、恭弥は目を細めるが。
ディーノは少し躊躇った後。
「オレに…させてくれねぇ?」
と続けた。それの意味する所を悟って、恭弥は「へぇ…」と、笑みを浮かべる。
「してくれるの?…手なんかじゃ、足りないよ?」
「わかってるって…、ベッドに座れよ…」
ディーノは恭弥を促して。今からの行動を示唆するように、ごくん…と喉を鳴らした。
それならばと、恭弥も逆らわずにベッドの縁に座って。
床に膝をついて、自分の膝の間に身体を置くディーノを見下ろす。
「サービスが良いね」
「……これもプレゼントのうちだ。味わっとけ…」
茶化すように肩を竦めて、ディーノは顔を恭弥の腰に近づけると。
すでに熱くなりはじめているソレに手を添えて、咥えた。
「……ん…」
恭弥の吐息が頭上から漏れて。同時に自分の鼓動が高まるのを感じる。
もっと、それを聞きたくて。気持ち良くしてあげたくて。
ディーノは力を持ちつつあるソレに舌を這わせて、顔を懸命に動かす。
「…ふ…、あんまり…しないのに。…上手いね」
「気持ちいい?…なら、もっと感じてくれよ」
擦れた声の恭弥を見上げて、口から外して囁くと。
口を窄めて先端をちゅ…と、吸い、それから尖らせた舌先を側面に沿わせて行く。
その度に上から吐息が漏れるから。ディーノは夢中でソレを愛撫していると。
ふと動きを止めるように、髪を掴まれた。
「ふ…ぁ…?…、何だ?」
「……は…、…ね…ぇ…、どうせなら…、もっと楽しませてくれる…?」
止められて離し、見上げると。
感じているように、頬が上気している恭弥の表情が目に入って、ぞくぞく…と、身体が震える。
でも言葉の意図が悟れなくて、困ったように見つめていたら、恭弥は艶笑して。
「…自分の、しながら…やってよ」
と続けた。
「…っ、それは…」
「見たい…、きっと…もっと…、気持ちいいから」
さすがにしり込みする気持ちがあったが。
もっと良くしたいと思っていたから。恭弥が望むなら…今日くらいは、良いかと。
ディーノは意を決して、自分のに手を持っていく。
片手で恭弥のを支え、再び口に咥えて舌を這わせ出して。
同時に、自分のモノを上下に扱き始めた。
触れた自身の熱さに、舐めていた事に興奮していた事がわかって、顔が熱くなる。
「…っふ…、く…、ん…っ、ん…」
「ん…、…気持ち…、いいね…あなたの息が…、熱くなった」
「ふ…っ…んん、…んぁ…」
大きくなりつつある口内のモノと、恭弥の声に感応して自身もどんどん熱くなってくる。
最初はおざなりにしていた自分への愛撫も、次第に手を止められなくなっていった。
唾液を擦り付けながら口に含んで、頭を動かして。
それと呼応させて、口端で喘ぎながら、自分のモノを愛撫している。
上から見下ろす姿は壮絶にいやらしくて、たまらない。
もっと見ていたいと思っても、どうにも快感が腰に溜まってしまって。
我慢できそうにはなかった。
「……く、…もう…出る…」
「んっ、んん…、ふ…、いいぜ…出せよ。…ん…っ」
切羽詰まった恭弥の声に、ディーノは深く咥えていた唇を一旦離すと。
再び先端に口付け先の割れ目に舌先を這わせてから、強く吸った。
促すようなその愛撫に止められず、恭弥はぶる…と身体を震わせると。
「………っく…」
声を詰まらせて、ディーノの口内へ吐瀉する。
ディーノは喉に受ける苦い液体を、眉を顰めながらも、ごく…と飲み干して。
直後に、愛撫していた自分のモノが弾けるのを止められなかった。
「っぁ…ぁ…、ふ…、ァ…ッ…」
緩く達して手の中に自分の精液を受け止め。
たまらず口を離して喘ぐと、離れた唇と頬に、止まらない恭弥の精が飛び散る。
「ァッ…、ふ…」
「すごい…、いやらしい…顔…」
とろん…とした蕩けた表情に、自分の精液が口元に流れて。
淫猥な表情を見せるディーノに、達したばかりの自身に再び熱が篭るのを感じていた。
「…次は、僕の番だよ…」
頬に流れる白濁を指で伸ばし、そのままディーノの唇へ持っていくと。
先ほどまでの余韻なのか、ディーノはその指を、ぴちゃ…と舐め出す。
彼の欲求も、まだ…足りていないらしい。その所作に恭弥は満足げに艶笑して。
今夜は…眠れないかもね。
と、人事のように思い、ディーノをベッド上へと、促した。
*
何度交したかわからない、蜜のような濃い夜を過ごして。
ぐったりと傍らに眠るディーノを、恭弥は見下ろしていた。
すでに窓から見える空は白んでいて、夜明けが近い事を示している。
眠くはあったが。これをもう少し、見ていたいと思ってしまって。
寝るタイミングを逃してしまった。
優しく髪を梳くと、ディーノは少しだけ身じろいで。再び気持ち良さそうに寝息を立てる。
「……ありがとう」
今日が、特別な日だと感じさせてくれて。
何でもなかったはずの日が、大切に思えるようになったよ。
無理して、来てくれた事も。嬉しかった。
でも、正面からはまだ。それを言えないから。
夢の中に届けば良いと、そう思って。
恭弥はディーノの耳元に唇を寄せると、再び囁いた。
「ありがとう…、愛してるよ、ディーノ…」
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2008.05.05
Happy Birthday 恭弥!!