ほぼ徹夜でごたごたの始末をつけ、ようやく自室に帰ったのは。
恭弥に電話をしてから実に半日が過ぎてからだった。
さすがに眠さと疲れで食事をする気力もないまま自室のベッドに倒れこむ。

太陽は真上にあるだろう真昼間だったが。
明るさにも構わず眠気は最高潮に達している。
夜中駆けずり回ったおかげで今は落ち着いているし、このまま眠って咎められる事はないだろう。
きっとロマーリオ当たりがオレの眠りを妨げないように。誰も通して来ないはずだ

そんな事をうつらうつらと考えながら。
ディーノはスーツを脱ぐ事も出来ずそのまま目を閉じて思考が沈んでいく。

それから、どれくらい経ったのだろう。
泥のようにと言う表現ぴったりに深く眠っていた意識が、顔に当たる感触に浮上しかける。
だが、まだ全然寝たりない。眠くて眠くて仕方ないのに。
くすぐったい頬の感触は顔を横に向けても追ってくる。

「……も、…寝かせてくれって…」
「嫌だ。起きてよ、せっかくここまで来たんだから」

いい加減に鬱陶しくなってぼそぼそ呟くと慣れた声が脳裏に染みて来た。
なんだ…恭弥か。も、ホント眠いんだって…。ほっといてくれ…
と、もごもご言いかけて。

「きょ…っ、恭弥…!?」

急激に意識が覚まされ、がば…っと上体を起こす。
居るはずのない人物の声。驚かないはずがない。
言葉も失ってあんぐりと口を開け、ベッドの脇に座っている相手を見ると。
紛れもなく、恭弥がそこに居たのだ。

意地の悪い笑みを浮かべて、わさわさと持っているものを揺らして見せている。
どう見ても笹の枝に見えるそれが、先ほど顔を辿っていた正体だと知った。
何で笹…?と首を捻りかけて。続く恭弥の言葉にさらに首を捻る。

「やあ。天の川を渡って来たよ」
「あまの、がわ…?」
「そう、僕は天に従うような可愛らしい性格じゃないからね」
「……お前が唐突なのは知ってるが、今回もまた意味がわからん…」

心地良い睡眠を無理矢理妨げられた脱力感でぐったりと項垂れつつ溜息を吐くと。
「七夕、知らない?」と言いながら笹で髪をぱしぱし、と叩く。
聞き覚えのある言葉に日本の言い伝えについて記憶を呼び覚まし、あー…、と喉を鳴らした。

「……越えて来てくれたんだ?そりゃー…もう、お疲れだったなぁ」
「そうだよ。だから、これあなたが叶えて。約束反故のツケ」

隔たれた2人の距離を越えて会いに来てくれた事に、眠気の取れてきた頭がようやく嬉しさを覚えて。
へにゃ…と緩んだ笑みを浮かべて手を差し伸べようとしたら。
そんな事を言いながら恭弥が笹の枝を差し出してきた。
そこにはなにやら、金色の長細い紙が付いていて。裏に何か書いてあるようだ。

「これ、なんだ?」
「短冊。七夕にこれに願いを書くと叶うんだよ」
「へー…、変わった風習があるなぁ…」

目を瞬かせつつも、遠路はるばる来てくれた恭弥の願いなら何でも叶えてやろう。
そんな大きな気分でディーノは紙を裏返した。


『あなたの名の車をちょうだい』


「……………、たっかいツケだなぁ…」
「あなたが持ってる赤じゃなくて黄色のがいい。状態も良い奴ね」
「加えて希少価値まで付ける気かよ。…ったくしょうがねぇんだから」

真面目に言う恭弥に喉で笑いながら。
ディーノの頭はすでにつてのあるディーラーの顔が思い浮かんでいて。
そんな事くらいなら叶えてやろうか…と、その気になっていた。
恭弥が12時間の距離を飛び越えて来てくれた事に比べれば、何てことはない。
しかも欲しいと言ったものが自分の名を冠するものだなんて。

「会えない間はその子に乗って気を紛らわすから」
「……もー、本当に…可愛い事言って…」

そう言い、自分の上に覆い被さってくる身体をやんわりと抱き締め。
愛おしさに溢れる感情のまま、ぎゅう…と抱き締めた。

「ありがとな…」
「別に?僕はしたい事をしてるだけ。お返しもしてもらうし、こっちにも…」

胸に抱いていてくぐもった声がなんとなく笑ったかと思えば。
首元に唇が押し付けられ、歯を立てられた。
びく…、と身体を揺らして視線を下げると。
反応に機嫌が良さそうに、にぃ…と口角を上げる。

「オレ、すげー…疲れてるんだけど…」
「だから?良いよあなたは寝てるだけで、僕がしたい事をするだけ」
「―――……ったく、しょうがねぇなぁ…」

身体はだるく、まだまだ眠い頭もあまり働かないようだったが。
恭弥が求めてくるように、自分も同じ気持ちなのは間違いない。
一方的に約束反故をした上、来てくれた以上。
絶対的に主導権は向こうにあるわけで。
悪戯に肌をなぞる唇に体温を上げながら、沈んでくる身体を再度抱き締めた。



「なぁ、オレにも短冊ってのくれよ」
「良いけど、何を書くの?僕は叶えないよ」
「お前にしか叶えられないんだから。気が向いたら見てくれって」
「書く前に言ってみなよ…、気にいったら紙あげる」
「何だそれ。短冊ってそーゆうもんなの?」
「そう言うものだよ」
「……あのな」


『揃いのリング付けて…?』


「……考えとく」


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2008.07.12

間を空けたわりに短くて申し訳ない…
七夕難しかったですよ(笑)蓋を開けたらとんだ馬鹿っぷるに。
えぇまぁ。この2人の一番馬鹿で甘くて阿保かと言うくらいの甘い時期なんです。
7〜8年後っていうのが(笑)

あと、フェ/ラー/リDI/NOの希少価値は良く知ってません(おい)
一般的に赤が多いから黄色のが高いんかな?と思っただけ。
型によってべらぼーに価格差がありますが、この車。
自分がちらっと調べたとき出てきたのが、状態が良いので家が買えそうな値段(笑)
300万くらいのもあったけど、ディノさんはきっとあらゆるコネを使ってたっかい可愛い子を選んでくるでしょうね(笑)
恭弥が黄色が良いって言ったのは。当然ふわふわの金髪に類似してるからです(笑)