結局、次の日になっても、ディーノの姿は少年のままだった。
帰るに帰れず、ロマーリオにだけは事情を説明して、ディーノは引き続き恭弥の所に居座っている。
今日は休校日らしく、恭弥は学校には行っていない。
しかし、休みでも構わず登校する彼なのに、とどまっているのは。
ディーノに付き合っての事だろう。
そんな事もあって。何となく昨日から感じていたが。
ディーノは携帯画面を見るふりをして、恭弥の様子を伺った。
この部屋での定位置なのか、ソファに座った彼は、先ほどから読書をしている。
(何か、優しい気がする…)
盗み見ながらディーノは思った。
昨日は確かに彼らしい悪戯を仕掛けてきたが、結局途中で止めたし。
それからは自分に対する態度が柔和な気がするのだ。
普段は、寄れば触れば「咬み殺す」とか言って、勝負になってしまうのだが。
この姿になってから、その台詞を聞いていないような。
まぁ、このままでは戦えないから、というのもあるかも知れないが。
それにしても、いつもと違う恭弥の態度に、ディーノは違和感を拭いされない。
そんな事を考えながら、いつのまにかしっかり凝視していたらしい。
気づいた恭弥がこちらを見て。ふ…っと、柔らかく笑った。
それを正面から見てしまって。ディーノの顔が紅潮する。
(ああああ、あんな顔、見せた事ねーくせに)
ふいをつかれたディーノは、動揺を隠し切れず。不自然に顔を逸らしていた。
何だか、そんな恭弥を見れて嬉しい反面。凄くもやもやしている感じがする。
それの意味がわからなかったが、突き詰める前に、恭弥から「退屈?」と、声がかけられた。
「そーだな。何もやる事ねーし…」
そう言ってから、そう言えば、今まで恭弥と二人で居た時は何をしていただろう、と思う。
応接室では、オレがまとわりついて、仕事の邪魔して。
そのうち勝負になって。飯食って、sexして…。
と、そこまで考えて、ろくな事をしていない…と、肩を落とす。
それでも。退屈だと、思った事はなかったな。
思いを巡らせていると、視線を感じて顔をあげる。
恭弥はずっとこちらを見ていたらしい。視線が合って、どきりとした。
固まったまま視線を逸らせない。
そうしているとまた、先ほどの笑みを見せて「こっちにおいでよ」と、手招きした。
誘われるままにソファへ近づくと、ぐい、と腕を引かれて抱き込まれる。
こういった優しい抱擁は、嫌いじゃないし、むしろ好きな方だけど。
だけど。…だけど。
「居心地が悪そうだね。どうして?」
「………」
オレは答えられなくて、口を噤んだ。
恭弥が、優しいから…なんて事を言ったら、おかしいだろうか。
そんな事を言ったら、優しくない方がいいのか、と言う事になる。
いや、違う。この違和感は。…このもやもや感は。
(“オレ”に、じゃ…ないからだ)
「お前が、いつもと態度が違うからだよ」
理由がわかったディーノは少し憮然としてぼそぼそと呟いた。
拗ねた様な態度に、恭弥は怪訝そうに「…そう?」と聞き返す。
「何か…さ、優しい気がする」
「それでどうして、そんなに不貞腐れてるの?僕が優しいと、嫌だとでも?」
「違う。そうじゃなくて…、だって、それはオレが子供になってるから…だろ?オレにじゃねーし」
言いながら、やっぱり恭弥にもすぐわかっちゃったな、と後悔していた。
聞いている表情が、みるみる呆れたようなものになっていったから。
恭弥は「なるほどね」と納得したように溜息をつく。
さっきからの違和感と、もやもや。
オレが、今の自分に嫉妬してるって、事。
「…僕は、別に優しくしたつもりはないよ」
「そんな事ないじゃねーか。大人しくくっついてるし…」
「そうだね。確かにあなたはあなただから、一緒には居たいと思うよ。だけど…」
そこで一旦言葉を止めて、少し逡巡した後。視線を落として恭弥は言った。
「今のあなたには、闘争心も、虐める気も、性欲も何も、起こらないんだ」
淡々と言われるそれに、オレは意味を捉えかねて首を傾げる。
そんな戸惑いにも構わずに、恭弥は続けた。
「昨日触れてて、わかったけどね。…どうして、途中で止めたかわかる?」
唐突にそう問われて、ディーノは頭を横に振る。
ただ、気が乗らなかっただけなのか、普段と勝手が違って面倒になったからか。
それくらいにしか思ってなかったが、違うのだろうか。
じ…と、見上げていると。恭弥は神妙な顔でこちらを見返してきて。
視線が深く絡まって、息を飲んだ。恭弥はゆっくりと、その答えを囁く。
「僕が欲しいのは、今のあなたじゃない。早く元に戻りなよ…」
そこで目を伏せて、音の無い言葉が続いた。
それは聞こえるような言葉ではなかったけど。
口の動きでわかった。“ディーノ”と、確かに呼ばれて。
オレは驚いて目を見開く。
その時。急に辺りが曇ったかと思ったら。
ぼわわ…ん。と間抜けな煙と共に、ディーノの姿が元の青年に戻っていた。
「あ…」
目線と。恭弥の感触で戻ったのがわかる。
ディーノは思わず、目の前の身体を思い切り抱き締めていた。
「戻ったぜー!」
嬉しそうにそう言って、ぐりぐりと頭をすりつけてくるディーノに。
恭弥は鬱陶しそうに目を細めながらも、押し退けようとはしなかった。
いつも感じていた、この暖かい感触を改めて味わうかのように。
恭弥もディーノの背に、そっと腕を回した。
End / back
2007.11.30
…駆け込み間に合った(笑)1000Hitのリクエスト有難うございました!!
最初は中身の指定はなかったのですが、メールにて承諾を受け、少年ディーノin元のまま、にさせて頂きました(笑)
いやー、悪ノリ悪ノリ…(爆)しかし楽しかったため、思ったよりも長く…、連載クラスの長さに…;;
暫く大人しく、これを書いていたわけです。はい…(笑)
ちゃんとリクエストを昇華できているのでしょうか(汗)喜んで頂ければ幸いです。
cyao*様、有難うございました(*^^*)