時計の長針と短針が重なる時刻。
日付が変わるその瞬間に、自分の思考が切り替わる。
早く、彼の元に行かないと…。
それだけが頭を締めて、未だ片付かない仕事から気が逸れて。
焦りにも似た苛立ちを抑える為に、安定剤を飲んだ。
麻酔にかかるように思考が落ち着き、目の前の仕事に集中していく。
そして程なくして切りがつく頃には、薬の効果も切れて。
先ほど押さえつけた感情が浮上してくるのだ。
けれど今度は苛立ちではなく。ようやく向かえる…、その思いで彼への焦がれに変化する。
足早に人気のない通路へと歩いて行き、廊下奥の扉を開いた。
続く階段を降りて行く。辺りに音は何もない、そして明かりもなかった。
真っ暗な階段を危なげもなく進んで行った。
すぐに行き止まりになって手探りでドアを開くと、ドアの隙間からランプの光が漏れてくる。
地下であるにも関わらず、高い場所にある1つの窓からは月明かりが注がれていた。
ランプと相まって部屋の中は仄かな灯りで満たされていた。
目が慣れればお互いの顔くらいはわかるだろう。
入室に気づいたのか、ベッドに寝ていた人物がゆっくりと身体を起こした。
同時にシャラ…と鎖の音も聞こえる。
まっすぐに見つめる視線が重なり、「遅くなった」と静かに言うと彼は口端を僅かに上げた。
まるで嘲笑するような笑みにゾクゾクと背筋が震える。
「…別に、待ってない」
冷たく答える声は掠れて嗄れ、酷いものだったが。
この上なく甘美な調べに聞こえた。自分だけに向ける、その声が愛しくて堪らない。
ゆっくりとベッドに近づいて行く。
彼の首には首輪があり、そこから長い鎖がベッドに繋がれていた。先ほど鳴った音はその鎖だ。
そして手には手錠。それらが外れていないのを確認すると、切り裂かれるような鋭い視線を感じた。
睨む視線にも構わず真っすぐに見つめ返すと、恍惚と微笑んで彼へ手を伸ばした。
思考が 麻痺していく
selects >>> Dino or Kyoya
Who has gone mad?